迷花 1
最近よく使うツールは、平行な細い線を一気に6~7本引けるブラシ。塗りの段階で髪の毛の流れを描くのに便利だし、それだけで情報量が増えたように見える。服に使うと、布地の質感を出すことが出来る。ソシャゲで厚塗り系のイラストをいくつか見ていると、見覚えがあると思うよ。それくらい多用されている流行の手法で、何より使っていて楽しい。
髪の毛と言えば、ブラシでベタ塗りすると輪郭線がつくレイヤー効果も便利だ。特にラフのときに、髪の毛の束を太いブラシの一ストロークで描くことが出来る。毛束の動きに躍動感を出せるかどうかは、キャラクターイラストで重要だけど、このやり方なら、線を引いていくよりも思い切った動きにできる。先に顔だけを描いて、上から髪レイヤーを描いていくと、せっかく描いた目が複雑に垂れた髪で隠れてしまうけれど、その隠し方を何パターンも試しながら、こだわることができる。
あとは様々なテクスチャを貼り付けていく。瞳にはランダムな岩石状のきらめくテクスチャを貼って、まつ毛にも残しておくとラメのようになる。キャラクターイラストで顔を描くのは現実のメイクに似ているけれど、もっと現実離れしたエフェクトで盛れる。例えば、マーブルドット柄を散りばめるとポップな印象になって、Vtuberさんの歌ってみた動画のサムネを依頼されたときにやると喜ばれる。
あとは、中国絵師さんのcolosoから学んだ線画の色トレスという技法、グリザイユ画法とグラデーションマップの組み合わせ......ここからは有料級だから、fanboxで私が限定公開している講座記事を見てください。
私にとっての画材――ツールというのはそういうもののことで、クリスタの3Dモデルやパース定規も、アナログのデッサン人形と変わらない。例えばコンピュータの計算に頼るのは、ポロックが絵の具をカンバスに流すのと変わらない。それらは物理現象を真似るための演算をすることはあっても、他人の選択を真似ることはない。ツールは計算はしても、選択してはならない。
絵を描くとは選択の絶え間ない流れのことで、自分の選択を刻みつける自由の表明だ。ブラシの一ストロークにも数千段階の微細な選択が込められていて、絵全体では数え切れない。描いていない間も考えている。もしそれを数回のプロンプトと生成されたバリエーションの選別で代替しようとするなら、それは創作ではなく鑑賞の一種だ。
ああ、彼らを批判するつもりはないのに。私は絵さえ描けたらそれでいい。憂葉、知ってる?絵で何かを批判することはできないんだよ。風刺画とかではなく、ただバズるために綺麗さを追求したキャラクターイラストでは、何かを否定する手段にならない。だから議論に巻き込まれることもない。
憂葉は前に、絵には絵にしか、言葉には言葉にしか伝えられないものがあると言っていた。たとえば絵には、〝無い〟という概念を伝えることができない。もちろん誰かの不在を表すために空っぽの椅子を描くとかは考えられる。でも、何がいないかを確定させるのは難しい。単語の前につける否定詞がない。
絵師の絵は基本的に誰かを楽しませるものだし、SNSはポートフォリオ代わりになる。いわば誰でも作れる個展会場なので、絵の間に主張の強い文章を挟むのを嫌う絵師も多い。だから彼らはAI関係の発言と情報収集のためにサブ垢を作る。
絵師とAIユーザーの連日の争いは控えめに言って地獄なので、あまり調べたくない。自分のメンタルを守るために、極力見ないようにしていた。もちろん最低限の原理については調べた。ただ、トレンドなどで目に入ってくるときがあって、そのツリーにはLoRA(特定の絵柄を追加学習によって模倣したもの)が共有されるサイトへのリンクが貼ってあった。私はそこで、自分のペンネームのついたLoRAを発見した。そして限界を感じ、憂葉に連絡した。
なぜ真っ先に助けを求めたのが、大学の友達ではなく憂葉だったのか。アンフィテアタが近くにあるというのはもちろん大きな理由だ。しかし、絵師としての自分を知っているのが憂葉だったからというのもある。ファインアート界隈は生成AIをそこまで敵視しておらず、私はそこに絵師界隈との温度差を感じた。彼らは作品がアナログであることで、学習素材とされることから守られているからかもしれない。いわゆる絵師、SNSで活動するイラストレーターの絵はAI登場以前から海外サイトに詳細なタグと共に無断転載されており、それらが無断で主流の画像生成AIの基盤モデルの訓練に使われた。このように最も初期に直接的に情報を収集され、最も学習に対して脆弱で、しかも市場において正面から競合された絵師たちと、安全圏にいるファインアート作家たちの間には危機感において埋められない隔たりがあった。
生き残りを考えるなら、デジタルイラスト単体での勝負に見切りをつけてアナログやパフォーマンスを売りとするジャンルに集中するべきだろう。なのになぜか、私の自己認識は〝絵師〟に寄っていった。SNSは依然として大量のいいねという形で私を受け入れていたからだ。
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