(三)

レセプションの会場にはスペインの民族音楽が流れ、ウェイターが飲み物を持って行き来していた。キャンペーン・マスコットはプロジェクトの顔だ、とマサコさんに促されるままに来賓に挨拶を続けた。市の幹部や商工会、寺院関係者、観光業界の関係者、教育関係者。どの場所でも、マサコさんの横で笑顔を作って頭を下げ、名刺を配った。でも、カメのジンダイタローについては、関心は薄いようだった。

スペイン派遣に追加されたコラボの件については、マサコさんとまだ話せていない。

両親を見つけた。会場のやや離れた場所で、スペイン側のスタッフと会話をしていた。来賓への一通りの挨拶がおわり、やっと両親のところにたどりついた。母はスペインの料理や、両親との同居などの家庭事情について聞いていたらしい。スペイン語は知らなくても、片言の英語で大丈夫だと言う。スタッフの何人かに、配布資料の私のイラストにサインを求められた。挨拶めぐりに疲れを感じていたので、とても嬉しかった。何か言いながら若い女性スタッフが、私を抱き締めて頬にキスをしてくれた。言葉がだめでも、絵を描いて見せれば、どこへ行ってもなんとかなりそうな気分になった。

気がつくと、両親が私マサコさんをみつめていた。二人ともぎこちない表情だった。

「やっぱり娘さんだったのね」二人の視線を受け止めるように、マサコさんが言った。「幸せそうね」

「やだ、マサコさんうちの父を知ってるんですか」

「お母さんもね。みんな同僚だったのよ」マサコさんが父の目を見ながら言った。「修羅場だったわね。でも私は日本でひとりぼっちで、どうすることもできなかった」

父は目を伏せながら言った。「娘があこがれているのが、君だったなんて」

「頑張ったのよ」とマサコさん。「私には、もう何も無かったから」

「ご結婚は?」母が割って入った。マサコさんの言葉に反発した様子だった。

「いいえ。でも、今日までなんとか一人でやって来れたわ。こうしてサヤさんにも出会えて、プロデュースができて嬉しく思っている」

「偶然が重なるものね。突然のことばかりで、ちょっと気分が悪いわ。とにかく、心配だわ。それにあの音楽家、どうして?」

「まあ、少し様子を見てみよう」と、父が言い、母の肩に手を置いた。

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