1-2

 ◯


 十五歳の誕生日を迎えたその日から、ぼくは少しづつ河童に近づきつつある。


 河童に近づく、とは、どういうことか?


「……まただ」


 早朝。寝起き。洗面所の鏡の前で、一人苦々しく顔を歪める。


 頭頂部。手で髪を掻き分けた先に、それはあった。


 ぽっかりと、開く円形の肌色。つるりとした地肌に、役目を放棄した毛穴がぽつりぽつりと寒々しくのぞいている。


 そう、それはまさしく、十円ハゲであった。


 ぼくの体に流れる忌まわしき河童の血。それが力を増すにつれ——こうして、髪の毛が抜けていくのだ。


「クソッタレ」


 鏡を睨みつけたところで、抜けた髪は帰ってこない。


 河童。それは水に住む妖怪。背には甲羅。体には鱗。手には水かき。口には嘴。そして頭には——皿。


 立派な。

 ツルッツルの。

 髪の毛一本生えない。

 皿。


 そう、体が河童に近づく、ということは、頭に皿が出来る、ということ。


 その前段階として、髪が抜けていくのである。


「クソッタレ……」


 もう一度、悪態を吐く。


 幸にして、範囲はまだ狭い。通常のハゲとは違い、河童の血が織りなすハゲは、それが静まるにつれ癒えるものなのだ。


 以前もこの程度のハゲ——いや、これよりも症状が進んだものが出来上がったことがあったが、色々あって治すことに成功した。もっとも、数ヶ月かかってのことだが。


 これ以上、自分の体を河童に近づけるわけにはいかない。自分が人間であるのだ、と強く自覚して——これ以上の脱毛犠牲を、防がなくてはなるまい。


 ぼくは河童じゃない。人間だ。


 人間だから——禿げたりなんかしない。


 かき分けた毛を、毛の抜けた部分が隠れるように戻し、ぼくは洗面所を出た。


 時刻はまだ六時半である。早寝早起きを心がけている、というわけではないのだが、どうにも部活時代の癖が抜けず、必ず六時に目が覚めてしまう。不愉快だ。


 中学時代までのぼくは、正気ではなかったのだろう。朝早くからパンツ一丁の半裸どころか九割五分裸を晒し、水底に入り込んでは魚の真似事をしてその速さを競う。


 そんなものは、人間の生活ではない。


 西暦も二千を越え、文明の全盛期である。人類誕生から五百万年。我々脊椎動物のご先祖様が最初に地上にお上り遊ばせてから数えれば、三億八千五百万年にもなる。それが今更、その進化の果ての果てである我ら人間が、何故自ら文明も地上も悉く投げ捨て、裸体同然の不様を晒し、水の中に帰ってゆかねばならないというのか。そんなことをしていては、ご先祖様に申し訳が立たぬ。三億八千五百万年の努力を、全て無に帰す不埒な行いである。即刻、全国の水泳部という水泳部を解散させ、そのような冒涜的行いをやめさせる必要があるだろう。


 そんな義憤に駆られながらも、ぼくは粛々と着替えを済まる。家族を起こさないように最小音量でつけたニュース番組をチラリと見れば、今日の天気は晴れらしい。傘の準備はいらないようだ。四角四面、真面目一辺倒といった厳しい顔つきのアナウンサーが、今朝方起きたらしい殺人事件についてのニュースを仏頂面で読み上げている。どうも、京都市内の話らしい。物騒な話だ。起き抜けから、余計に嫌な気持ちになった。


 制服に着替え終えたぼくは、ニュース番組を消す。置き勉により大幅な軽量化に成功したスカスカの鞄を肩に下げ、玄関へ。学校指定の草臥れた革靴を履いて、ドアを開けた。


 登ったばかりの朝日が、街を黄金色に照らしている。


 別段、真面目くんを気取るわけではない。むしろ、自分はその逆であるという自負がある。しかし、家の中にいたってやることがないのだから、外に出るほかない。


 静謐とした無人の街路を歩きつつ、これから先の時間をどう潰そうかと考える。素直に学校に向かっても良いのだが、またぞろ裸の変態に不埒な誘いをかけられても困る。いい具合に時間を潰して、あの変態が朝練に草臥れてホームルームを寝て過ごす準備を整えるあたりで教室につけるように調節したいところだ。


 我が家は北山の山瀬にある。


 住むものから言わせて貰えば交通の便も悪い僻地であるが、昨今の地価の上昇により、売りに出せばそれなりに良い値がつくだろう程度の立地だ。


 しかしだからと言って、その場所に住むぼくが裕福な家の生まれなのかといえば残念ながらそうではない。たまたま先祖がそこに家を持っていた、というだけで代々そこに住み着いているのみに過ぎず、我が家は一般的な中流家庭だ。

 それどころか、自らの不徳を恥じていましむように頭部を隠す、仮にも我が家の大黒柱であるはずのあのしょぼくれた中年男性は、どうやら最近、勤め先の出世コースから外れたらしく、転職を検討中である。情けない話だが、しかし対岸の火事と笑ってもいられない。その皺寄せはぼくの懐事情にも表れている。


 悍ましき水泳部の洗脳から脱して以降、無事暗黒の街道から外れたぼくの日常であるが、唯一の凶事として、『部活でお腹が空くから』という名目で多く頂戴していたお小遣いが、大幅減額の憂き目にあう、という悲劇が起こった。

 もとより、ぼくに与えられているお小遣いは少なかった。雀の涙のようなそれをどうにかこうにかやりくりしてなんとかなっていたのは小学生時代までのことである。


 無論、本来は食費として頂戴していたそれなのであるから、減ったとしても問題はないはずだ。しかし、水泳部に囚われていた間のぼくと言えばその心を誑かされて、本来の清廉潔白な人格とは似ても似つかぬ悪逆非道の大悪党と成り果てていた。泳いでも世間で言われるほど体力を消費せぬからと、自らの体の頑丈さに飽かせて、食費として受け取っていたお小遣いをちょろまかして運用していた。今にして思えば人の道を外れた恥ずべき行いである。しかし、それを為していたのは断じて、そう断じて、このぼくの心根ゆえではない。あの頃のぼくは、水泳部に頭をやられていたのだ。正気に戻った今のぼくは、それがいけないことであったとしっかりと理解している。おのれ水泳部め。健全な青少年の心をこうもどす黒く染めるとは。やはり、水泳などという不埒なスポーツは人間のやるべき行いではないのだ。即刻廃止にすべきである。


 話がそれた。


 ともかくそんなわけで、心を入れ替えたぼくであるが、しかしお小遣いの減額は如何ともし難い。学校までの道のりはそれなり長く、時間の潰せる店もそれなりにはあるが、そのような場所に寄っている余裕がないのである。


 学生にとって遊び歩く金がない、ということがいかに重たくのしかかり、その青春を灰色に染め上げるかについては今更講釈を垂れるまでもなく読者諸兄の誰しもが知るところであろう。そのような苦労を味わったことのない人間は、そもそも小説など読むまい。代わりのように、自宅に備え付けられた煌びやかなプールで子女と遊び、不埒な冒涜に精を出したりしているのだろう。許せん。やはり水泳は人の行いではない。


 ともかく、だからこそ。この空白時間にぼくがすることといえば、ただ一つ。


 つまりは、元手を増やすこと。


 早い話が、バイトである。


「師匠、ぼくです」

「おお、よう来たな伊江郎」


 賀茂大橋の下が、その男の住処であった。

 山賊のように伸ばされた髭が必要以上に男を老いてみさせるから、正確な年齢はわからない。ただ、五十を過ぎてはいないだろうと思われる。


 本名は知らない。ぼくは彼を師匠とだけ呼んでる。


 色褪せた金魚が踊る和柄のアロハシャツに、おそらくは元は白だったのではないかと辛うじて推察できる、汚らしいドブネズミ色の半ズボン。冬であっても変わらないその服装が、彼のトレードマークだった。壊れかけたサンダルに指毛が生え放題の醜い素足を突っ込み、土手の地べたに汚れも気にせず直接あぐらをかいている。あるいは彼自身が、石畳にこびりついた汚れそのものであるのかもしれない。


 彼は片手をあげてぼくを歓迎した。もう片方の手には酒瓶が握られている。ラベルには『美焼』とだけ刻まれている。焼酎だろうか? 見たことのない銘柄なのは、きっとぼくが未成年だからというだけではないのだろう。


 酒瓶から視線を外して、ぼくは師匠に問いかけた。


「——何か、良い仕事が入ってはいませんか?」


 それを問えば、師匠はゆったりと目尻を下げた。


「うむ。お前さん向きのが、一つ」


 その言葉に、ぼくもまた口の端をわずかに釣り上げる。その言葉が聞きたかった。


 師匠は仲介屋だ。


 一見して粗末な浮浪者としか見えない彼であるが、しかし彼が持つ人脈は幅広く、どこからともなく奇妙な仕事を仕入れては、それを解決できる能力を持つものへと流している。その時に紹介料をせしめて、生活を成り立たせているのだ。


 あの焼酎も、おそらくはそのような手段で手に入れたものだろう。酒屋か酒蔵か、どこかそのようなところに、何かしら貸を作ったのに違いない。


 なぜ一介の浮浪者でしかない彼が、そのような人脈を持ちうるのか。


 本人に聞くところによれば、彼も昔はとある大会社を経営する一国一城の主であったという。しかしながら悪意あるものに隙を突かれ、その立場を奪われてしまったのだ、とも。その挙げ句が今の路上生活であり、落魄れた彼が今こうして仲介業を営んでいられるのは、その社長時代に繋いでおいた伝手が、今なおわずかなりとも生き残っているからなのだ——という。


 事実だとすれば凄まじい転落人生であり同情を禁じ得ないが、しかしぼくはその話を全くと言っていいほど信じていない。


 と言うのも、彼が元々経営していたと主張する会社は今も健在なのであるが、そこの社長は創立時代から一度も変わっていないし、その人相は彼とは似ても似つかない溌剌とした老人である。彼が入り込む余地はどこにもなかった。


 だから彼が酒に酔うたびに涙ながらに語るその苦労話は、九割型嘘なのだろうと思っている。


 しかし、たとえ彼が大法螺吹きであったのだとしても、ぼくが彼に向ける敬意はなんら揺るぐことはない。彼の過去が偽りであろうとも、今の彼が築き上げた人脈は本物である。そして何より、それを築くに値するだけの敬服すべき人格的優美さを、彼はその見た目の汚らわしさに似合わずして、確かに兼ね備えているのだから。


「その仕事というのは?」


 顔を近づけて問えば、彼は密やかに答える。


「猫探しだ」


 別段、隠語や暗喩というわけではない。聞くところによれば、この近くで何やら迷い猫が出たらしく、飼い主がそれを探しているのだという。単純明快な話だった。


 猫探し。うずまきナルトが最初に果たした任務としても知られる、由緒正しき雑用である。忍者であろうと無かろうと、誰にでもできる。すばしっこいとは言え所詮は畜生。地を這い蹲りにゃあにゃあ喚くばかりが能の、知恵なき毛むくじゃら一匹捕える程度、人間様にかかれば易い仕事だろう。師匠がわざわざ仲介するほどの仕事には思えなかったが——


「——報酬は?」


 それを聞けば、彼は不敵に目を細めた。


「聞いて驚け——一万円だ」


 思わず瞠目する。


 これだ。

 これなのである。

 これこそが、ぼくが彼を師匠と呼び仰いで憚らない最大の理由だった。


 一万円。その言葉が放つ悪魔的魅力はといえば、この現代日本に住むすべての人間が知るところであろう。もし知らぬものがいるとなれば、それはまだ金の魔力も知らない生まれたばかりの無垢な赤ん坊か、あるいは金の魔力をすっかり我が物としきって悪魔の側へとその立場を変じさせた唾棄すべき邪悪な資本家かのどちらかである。


 知恵も技能もやる気も元気も何一つとして持ちえない阿呆な高校生風情が、通常、労働の対価としてそれを得ようと思ったならば、果たしてどれほどの時間と手間暇がかかるであろうか?


 それを猫一匹捕まえてくるだけで得られると言うのだから、これほど旨い話は他にない。

 このような仕事を仕入れる手練手管、そして何よりそのように美味しい仕事を、このように金欠に喘ぎ、貧するあまり鈍するを超えて人格を歪められる一歩手前にまで追い込まれた哀れな男子高校生へと、惜しげもなく恵んでくださるその人格的優美さがこそ、彼の最大の魅力なのである。


「その仕事、是非ともお受けさせていただきたいです、師匠」


 力強く頷いていえば、彼もまた鷹揚に頷き返す。


「うむ、それでは」


 師匠はぼくの方へと向けて、そのカサカサに乾いて油っぽい手のひらをぬうと差し出した。


「仲介料だ」


 わかっていることだが、彼も慈善事業で仲介をしているわけではない。


 これほど上等な仕事を仕入れてきてもらったのであるから、当然その対価は支払う必要があるだろう。


「何枚ですか?」


 ぼくがいえば、彼はその髭だらけの口元を歪めて言う。


「五枚」


 五枚……五枚か。

 業突く張りめ。なかなかいいラインを突いてくるじゃあないか。


 確かに痛いが、報酬を鑑みれば決して払えぬほどではない。ぼくは仕方なく肩をすくめて、カバンのチャックを開けた。


「どうぞ、お納めください」


 取り出したものを渡せば、彼は満足そうに満面の笑みを浮かべて頷いた。


「うむうむ。ちょうどこれが欲しかったのよ」


 渡したうちのその一枚を、彼は大胆にも


「どうですか、お味のほどは」


 ぼくが問えば、師匠は声を和らげて言う。


「うむ。美味い」


 言いながら、師匠はカラカラに干からびた宇宙人のミイラのような気色悪い見た目の物体をじゅるじゅるとしゃぶり倒す。妖怪が妖怪を喰らっているかのような、肝が冷えて仕方がない不気味な光景であったが、ぼくが目の当たりにしているそれは断じて心霊映像などではない。

 師匠はをしゃぶりながらもごもごと口を開く。


「やはり——お前の持ってくるは逸品だな」


 そう、ぼくが彼に渡したのは、五枚連なりの立派なであった。


 小ぶりのイカ一匹を丸のまま干したそれは市販のものではなく、ぼくの家で一から作られたハンドメイドの一点ものである。


 ぼくの生物学上の父親は、釣りを趣味としている。どちらかといえば自分が釣られる側ではないかと思うのだが、しかし同族への情を持たないのかなんなのか、彼は釣りが好きであった。


 しかし残念ながら好きであることが得意であることとは結びつかなかったようで、彼が釣竿を持って出かけた日に持ち帰ってくるのは、決まってクーラーボックスにこれでもかと詰まったイカだけだった。


 あの男はどうして、魚を釣りに出かけてイカばかりを持ち帰ってくるのか。

 幼少期から、定期的にイカばかりが食卓に上るイカ地獄を経験させられ、ぼくはすっかりイカ嫌いである。なのにも関わらずあの男は飽きもせずイカをイカをイカばかりを何度も何度も馬鹿の一つ覚えに釣ってくるものだから、次第に我が家では、イカは干してスルメとし、ご近所さんや友人に配る習慣ができた。


 師匠に渡したスルメも、そうして作られたものの一部である。


 ぼくにとってはもう食べ飽き過ぎて見るにも飽きたスルメであるが、しかし渡した先では妙に評価が高く、人気である。他にはない滋味がある、らしい。ぼくにはよくわからないが、しかし不人気であるよりかは遥かに良い。


 師匠もまたこのスルメを一等気に入ってくださり、これを対価として仕事を融通してくれるようになった。金よりも物品での礼を好むあたりが、彼のだとぼくは思っている。


 ぼくにとってしてみれば元手はほとんどタダであるので、これほどありがたいことはない。あまり勝手に持って行きすぎると母に怒られるが、しかし勝手に湧いて出てくるイカ五匹ぽっちが福沢諭吉大先生に変身すると言うのだから、怒られるリスクを鑑みたとしても、それをしない手はどこにもなかった。


「日本一の酒の当てだ」


 嬉しそうに言いながら、師匠は酒瓶の蓋を開ける。朝から酒盛りとはいいご身分だ。頭上の橋を渡る家持ちの労働者たちよりも、よほど優美な生活である。ぼくも大人になったら彼のような生活がしたい。無論、屋根と壁に囲まれての上で。


「それで、師匠。探す猫の姿形は?」


 依頼が来ていると言うくらいなのだから、写真の一枚くらいはあるだろう。聞けば、彼は一つ頷いて胸元から写真を一枚取り出した。


「うむ。これだ」


 ぼくはそれを恭しく受け取って確認する。


 写真には、猫耳をつけたメイド姿の美女と師匠のツーショットが映っていた。


 際どい丈のミニスカート。メイド服としてはやや邪道寄りの、ロリータファッションに近いフリルドレス。それを身にまとった女性は、ハートマークの半分を形作る師匠の手に、サムズアップを返している。


 ……ふむ。

 姿形は人のように見えるが、耳はある。

 よく見れば、腰のあたりから尻尾も生えているようだ。

 猫といえば猫、か。


「……わかりました、師匠。必ずや見つけ出して見せます」


 事情は聞くまい。師匠とて男。そう言う日もあろう。ぼくは決意を胸に、歯を食いしばったまま彼に写真を返した。


「む、なんだこの写真は」


 自分で見せた写真だと言うのに、師匠はそれを見て首を傾げた。


「違うのですか?」

「違うわい。見てみろ。これのどこが猫に見える」


 彼は写真を指差す。


「これはどう見ても女豹であろう」


 ぼくは天を仰いだ。橋の底の、汚い闇が見えた。師匠の境地は、まだぼくには遠いようだ。願わくば永遠に、遠いままであって欲しいと思う。


「すまぬすまぬ。逆のポケットだった」


 師匠はガサゴソと胸元を探ったあと、もう一度写真を差し出した。恐る恐る受け取ると、それは今度こそ間違いなく猫の写真であった。


 黒とオレンジのまだら模様。いわゆる錆猫というやつだ。写真を見る限り、やや黒の比率が多く見える。首元には白い首輪がしてあって、金具が特徴的なハート型をしているから、それが良い判別材料になりそうだった。


「ふむ、本当にこっちで良いんですか? ぼくは女豹探しでも成し遂げて見せますが」

「お前にはまだ早い。あと三年待て」


 師匠は首を振った。


「では、猫の方を探してきます」

「うむ、行ってまいれ。いなくなった場所と依頼人の心当たりは、写真の裏に書いてあるでな」


 受け取った写真を裏返すと、確かにメモが書かれている。師匠の字では無い、丸文字だった。


「わかりました。吉報をお待ちください」


 ぼくは頷いて、橋の下を出る。師匠と少し話し込んだとはいえ、まだ通行人が増えるには早いようだった。


 授業が始まるのが九時だから、移動も考えれば、タイムリミットは二時間というところ。まあ、それだけあれば十分だろう。


 根拠のない自信を胸に、ぼくは川沿いの土手を歩き出した。

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