第8話

勇んで乗り込んだ直後、ビビって脚が竦む。



『…ぅわ』



寮にしては広過ぎる部屋。高級マンションのようなお洒落なリビングと、対面式の綺麗なキッチンもあり、寝室と思われるドアが2つ。それとあっちは風呂かな。



…普通に借りたら絶対凄い家賃だ。



『すげー…な』


「別に普通だろ」



男は、何が?といった顔で、す、と一つのドアを指す。



「あっちの部屋、空いてるから」


『お、おう』



言われた部屋もそれなりの広さはあり、生活に必要な家具は既に一揃い備わっていた。そこに一旦荷物を置き、リビングに戻るが、つい溜め息が零れる。



…なんでよりによってあの変態と同室なんだろうか。龍兄の言う変な奴ってのに、ぜってぇコイツも含まれるよ、うん、身の危険感じるもん。



大きな白いソファーに偉そうに座る、その変態を見下ろして身構える。



「じゃああらためて。俺は城咲 雅しろさき みやび



宜しくな、同居人さん?城咲と名乗った男はそう言って、手を出して見上げる。



『…俺は天宮 瑠綺』




――――――パシ…



『誰がアンタなんかと宜しくするかよ変態』



差し出された手を、軽く叩いて跳ね除ける。もう信じない、握手だなんて、誰がしてやるもんか。



「へぇ…そりゃ残念」



すると、城咲は不意に立ち上がって、此方に一歩詰め寄った。咄嗟に後退ったが、間に合わない。



…や、べぇ。



退路を壁に阻まれ、あっという間に城咲と壁に挟まれた。




「それより…何?誰にそんな口利いてんの?」


『ちっ…近いって!止めろよ変態っ』



壁に手を付いて覗き込んで来る城咲は、吐息が掛かる程に顔が近い。その端正な顔で迫られると、相手が同性であろうと心臓に悪い。



「変態ねぇ…俺、別にそっちの趣味ねぇんだけど」


『てめ…説得力の欠片もねーんだよ!!じゃあなんでこーゆーことしてんの!?』


「知らねぇよ、只…お前、一々反応良いし…女みたいだし」


『だから俺は女じゃね…っん!!』



瞬間、またしても唇を塞がれた。今度は壁に押し付けられてしまっていて、全く逃げ場がない。



『…っん、や……っ!!?』



止めろ、と言おうとした僅かな口の隙間から何か柔らかいものが入り込んできた。



な、な、な…なん…!!?



舌、なのかこれは。口内を甘く犯していくその得体の知れない刺激に、為す術も無い。何度も角度を変えて落とされる口付けは深く…もう頭が追い付かない。



『…っは…』



暫くして漸く唇が離されたが、未だ何も考えられず…只々目の前の男を見上げるしか出来なかった。



「…だから、その顔がそそるんだって」



そんな一杯一杯の俺を何処か満足げに見下ろして、城咲は艶やかな微笑を浮かべる。そうして、ふ、と離れて自らの部屋へと入っていった。



『…なん…だよあいつ…!!!?』



ドアの閉まる音で我に返り、急に恥ずかしさが込み上げてきた。自分の部屋に駆け込み、そのまま真っ直ぐ潜り込んだベッドに顔を埋める。



…一体、一体何なんだあの男は…!?



有り得ない。男を襲うなんてどうかしてる。こんな変態と暮らすなんて…俺、これから先どーなるんだよ…!?



いろんなことがありすぎて疲れ果てていたのか、空腹などを考える余裕もなく、混乱もそのままに眠りに落ちて行った。

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