ようこそお嬢さん
第5話
起こされた方も想定外だったが、思わぬカウンターを喰らった方も想定外の御挨拶に息を荒げる。
…っん…とに…有り得ねぇ…!!!
言いたいことをぶちまけて、思い切り睨んでやった。動揺する此方とは対照的に、一度は驚愕の表情を見せた昼寝男も黙ってそのまま此方を見据える。
お?俺の睨みが効いたか?
などとドヤ顔で思っていると、はぁ、と男があからさまに溜め息を吐きやがった。かと思うと、ゆらりと立ち上がって踵を返し、すたすたと歩き出した。
『っえ、ちょ、放置!?』
又しても想定外の反応に戸惑っていると、最早離れた所にいる昼寝男が振り向き、再び溜め息を放って。
「何ボサっと突っ立ってんだよ」
道分かんねぇんだろ?と、一言だけを残して、また直ぐに歩き出した。
…あ、道…案内してくれんのか!
何やら上目線なのが少々気に喰わないが、確かに此処でチャンスを逃すと本当に次はなさそうだ。慌てて小走りで追いかけた。
そうして追い付いたは良いが、道案内を買って出てくれた男は果たして本当に善人なのだろうか。
……………沈黙。
この気不味い空気に、悪意すら感じてきた。
奴の若干斜め後ろを歩き、疑いの眼差しでその広い背中を睨み付ける。こちとら迷子の転校生だよ少しは気遣ってよ何か喋れよコラ、と若干横暴にその横顔を窺い見るが、なんとも涼しい顔してやがる。
…期待するだけ無駄か。
はぁ、と諦めの溜め息が零れ、足元に視線を落として大人しくぽてぽてと歩き続けた。
「…さっきは悪かったな」
…え?
暫く歩いて、その沈黙にも慣れて来た頃だった。不意に上から声が降って来て、思わず足を止める。それに合わせて男も数歩先で立ち止まり、改めて此方に目を向けた。
「寝起き…悪くて」
『…あ、ああ!うん、もう良いって』
寝起きが悪いとかいうレベルじゃない問題だったような気はしたが、この男がこんなに素直に謝ってくるなどとは、これッッぽっちも思っていなかった為、これ以上何と言えば良いのか分からなくなる。
…コイツ、実は普通に良い奴なのか?うん、寝惚けて過ちを犯すことだってたまにはあるよな、人間だもの。
「なぁ、名前何ての?」
そう問われ、先程よりはそいつに対する不信感が薄くなっていたのもあり、機嫌良く答えた。
『俺は瑠綺っ』
…取り敢えず此処じゃまだ友達いないし、最初から敵作るのもまずいかな。
そんな考えも働き、一歩歩み寄った序にやんわり笑顔も付けてやった。すると男は、何やらぼんやりと考えるような顔をしたかと思えば、す、と開いた手を差し出した。
握手かな?と、反射的につられて手を出したが…それが間違いだった。
――――――ぐいっ…!
『…っな!?』
握手ではなく、掴まれた手首を引かれて…次の瞬間にはそいつの腕の中に収まっていた。
『んな…何すんだっ』
その胸を全力で押し返すがびくともせず、それどころか腰に回された片腕がしっかりと絡み付いて、更にきつく抱き寄せられる。身動きなんか一切出来なくなり、こうなったら睨んでやろうと顔をあげた処を、すかさずもう片方の手が顎をくい、と掬っていって。
――――――ちゅ…
…そのまま、噛み付くように唇を奪われた。
『…っん…!!』
訳が分からない。突然の強引なキスは思考を停止させ…それだけじゃない。荒々しい唇に抵抗できずにいる内に、それは次第に甘く、蕩けていって…初めての感覚に為す術もなかった。
『っ…』
やっと唇を解放されたが、頭は真っ白なままだ。未だに身体に力が入らず、不本意ながら腰の手に支えられざるを得ない。
『…っ何…考えてんだよ…!?アンタまだ寝惚けてんの!?』
「いや…完璧起きてるけど」
呼吸を整えながら問い質すが、悪びれもせず飄々と男は言う。
『じゃあ…なんでっ』
「さあ…なんでだろうな」
『んだよそれ!?さっきは謝ってくれたじゃんっ!!』
「そりゃ初対面の男にあれはないと思ったから」
今だって初対面のままだよ!会った瞬間かそうじゃないかの違いだけで!!そうツッコんでやりたいのに、余りに堂々としている男に何も言い返せない。
「でもこれは、謝らない。今のは無意識でも事故でもないし…」
男は口の端を上げて言った。
「…したくなったから」
に、と笑ったその顔もまた格好良い…って違う違う。
『訳分かんねぇ…!んな理由があるかっ』
ぐいっ、とそいつの腕からなんとか逃れ、直ぐさま走り去ろうとした。
…が、瞬間。
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