第3話
…誰だ…あの人。
夢か幻のように消えた背中を見送って、ぼんやりと考える。その長身に着崩して纏っていた制服の所々に血が滲んでいたようだったが、それは恐らく…彼自身のものではないだろう。折り重なったその他大勢は、どうやらこの学園の生徒では無いように見えた。
『…ってか!』
あの人に道聞きゃあ良いんじゃね!?
『…………いやいやいやいや』
…ないな。ナイナイ。村人Aじゃあるまいし。幾ら生徒Aにエンカウントしたといっても、あの殺伐とした状況でフランクに道なんか訊ける訳がない。
名案が浮かんだとばかりに駆け出し掛けたが、直ぐ様思い直して足を止める。
…此処は取り敢えず一旦立ち去って、別の人を探そう。
倒れてた人達も心配だけど、流石に死んではいないだろうし…俺一人であれだけの人数を運ぶのも無理だからやはり救援を呼ぶべきだ。
何にせよ迷子を脱するチャンスを掴めずに未だ彷徨っている自分に溜め息しか出なかったが、仕方なくとぼとぼ歩き続けると、少し開けた広場のような場所に出た。
ふかふかした芝生と咲き乱れる花々の中央には大きな噴水があり、こんな状況でもつい眺めてしまう。だってさ、絵に写し取りたいと思う程に見事な風景は楽しまなければ損だ。迷子にさえなっていなけりゃね。
『…あ…』
そんな広場の隅にある、青々とした若葉が美しい木は桜だろうか。その根元に目を遣ると、寝転んでいる人らしきものが見える。
…やった!今度こそ第一村人…じゃない、生徒A!
漸くこの迷路庭から脱出出来る…寝ている人間を起こすのは気が引けるが、此方も切羽詰まってんだし。遠慮なく起こして道訊きますよごめんなさいね。
悪気なく心の中で謝りながら、桜に歩み寄った。
『すみませーん』
辿り着いた木の足元で、昼寝男の傍にしゃがみ込みその顔を覗き込む。
…あらら、しかしまあこれはこれは。
計算されたような撥ね具合の髪は、キャラメルのような明るいブラウン。すっと通った鼻筋に、形の良い唇。そんな寝顔を見ただけで充分に分かる。
…こいつ、かなりのイケメン君と見た。
その容姿の所為だけじゃないが、見ていて思わず頬が緩む。
…なんて幸せそうな顔して寝てんだろ。
声を掛けたにも関わらず、穏やかな寝顔はとても自然で、うっかりそのまま見惚れてしまう。が、それじゃあ困るんです。悪いけれど再チャレンジさせていただこうか。
『あのー、起きてもらえますー?』
再び声を掛け、今度は軽く身体を揺さ振ってみる。すると昼寝男は一瞬眉間に皺を寄せた後、ゆっくりと瞼を持ち上げた。
『…………あ…の』
…限りなく橙色に近い、茶の瞳。
閉じていた時には見えなかったその綺麗な瞳に、上手く言葉が出なかった。無意識の内にそれに魅入ってしまったのか…他の動きには一切意識が向いていなかったらしい。
…男の手が此方に
伸びて来ていたなんて。
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