どうか永遠に愛させてください【ショートショート】

りすこ

どうか永遠に愛させてください


「お願い。また、私を見つけてね」


涙を流しながら、僕にしがみつく彼女に誓いを立てる。


「当然だよ。約束する」


このまま二人が一つになればいいと願いながら、彼女を抱きしめた。


視界の端で、時計が見える。秒針が、今日の終わりを告げようとしていた。


十、九、八……


明日の始まりが近づくたびに、僕の心臓はどくどくと高鳴る。進む針を見たくなくて、目をきつく瞑る。


七、六、五、四……


零になった瞬間、また彼女と離れてしまう。彼女がいない日々が始まり、出会えるかわからない悪夢がくる。


嫌だ……



「必ず君を探すから!」


三……


「だから……また僕に恋をして……僕を……見つけて。お願いだ……」


二……


彼女が顔をあげる。その瞳は濡れていたけど、表情は微笑んでいた。


一……


「あなたが好き。またきっと、私は恋をするわ」


彼女の告白は、僕の胸に響いて、ぼろぼろと涙がこぼれ落ちた。


──零。


ゴーン


頭上から重い鐘の音が響く。十七歳の誕生日を祝福する鐘の音は、僕には断罪の音にしか聞こえなかった。


鐘が鳴り終わると、どこからともなく白い扉が現れた。扉には、大地に根を下ろす樹木のモチーフが描かれている。木の根の一つがこうこうと光り、扉が開いた。


白い羽根が扉から出てきた。いくつもの羽根が大きな手のような形になって、僕たちを掴み、扉の中に引きずり込んだ。


──バタン


扉が閉まると、真っ白な世界になる。

足先から輪郭が失われて、白にとけていく。


頭がぼんやりしてきた。


――忘れろ。彼女を忘れて、自由になれ。


白い世界は、僕の記憶をも奪う。


思考がバラバラになりかけて、僕は切に願った。


嫌だ。彼女を忘れたくない。

この指が動くのも、この足が進むのも、この心臓が脈打つのも、すべて彼女がいるからなんだ。


僕から彼女を奪わないでくれ!


粉々になった記憶をかき集める。

それを必死に抱いて、別の世界に転生した。



目が覚めると僕は赤子になっていた。

彼女のことは忘れていない。名前を思い出せた。安堵が胸に広がり、僕は声をだした。


「ふぇっ、ふぎぁあ……!」


女の人がベビーベットに駆け寄ってくる。彼女は僕を胸に抱き、あやしはじめた。


「あら、おなかがすいたの。よしよし、ミルクを作るわねー」


彼女は僕の母親だろうか。愛しげに見つめられ、切なくなる。

僕、十七年しか生きられないんだ。ある日突然、お別れになると思うけど、ごめん。

謝罪はぐずり声になって、彼女には届かなかった。



十七年の人生の始まる。

もう何度、この歳月を繰り返したかわからない。


はじまりは彼女と一緒にいたいからだったと思うけど、年月が経ちすぎて、理由を忘れてしまった。でも、理由なんてどうでもいい。

彼女が見つけられたら、それで。


早く歩けるようになって、彼女を探したい。

十日間しか居られなかった時もあるから、今度の人生はどうだろう。近くに彼女がいればいいんだけど。


赤子の時間はじれったくて、僕はベビーベッドの上で、彼女のことばかり考えていた。

よく思い出したのは、前回の彼女のこと。


前回の僕たちは、日本という国に産まれた。


桜が散った四月。中学校の入学式で彼女を見つけた。すぐ声をかけたときの、彼女の唖然とした顔は可愛くて、口がにやけた。


最後の夏は、縁日に行って露店でオモチャの指輪を買った。


「指輪交換をしよう」と、浴衣で疑似結婚式をした。

本物の指輪を薬指にしてあげたいって、思った。


だから、今度の人生は結婚までできればいいけど、十七歳の期限は厳しいんだ。


一度だって、結婚式は挙げられていない。

でも、叶うなら。

彼女の花嫁姿を見てみたいな。


夢を抱いて二年の月日が経つと、彼女に出会えた。彼女は隣の家に住んでいた。

彼女をみた瞬間、僕はぼろ泣きした。


「え? どうしたの!? どこか痛い?」


彼女は僕を忘れている。でも、好きになってくれたら、思い出してくれるはず。

僕は彼女にひっつき、八歳になると告白した。


「好きです。僕のお嫁さんになってください」

「えええ!?」

「……嫌?」


彼女は呆然とした後、ふと大人の顔になった。


──あ。まさか記憶が……


彼女は瞳を潤ませて、笑った。


「思い出したよ。また、恋をさせてくれてありがとう」


微笑む彼女が愛しくて。

でもどこか罪深くて。

僕の涙は止まらなくなった。


僕では彼女を幸せにできない。

十七年は短すぎる。


それなのに、彼女は抱きしめてくれるんだ。


「泣かないで……私、幸せよ」


僕は彼女にすがりついた。


「僕も……幸せ……だ」


君といられる今この瞬間が、愛しいんです。


だから、どうか。


永遠に、愛させてください。


それだけが僕の望みです。

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