【犬のエッセー】ボクのハッピータイム

山谷麻也

与太話 聞いてやってください

 ◆散歩大好き

 犬は散歩と食事、どちらが好きなのだろう。同列に論ずる性質のものでないことは、分かっている。ただ、ある方から

「犬はエサをくれる人より、散歩に連れて行ってくれる人になつく」

 と聞いたことがあった。


 それは盲導犬にも言えるようだった。

 雨でも降ってない限り、喜び勇んで散歩に出る。昼夜関係ないので、直射日光が超苦手な筆者はとても助かっている。夕方や夜間の散歩は快適だ。


 ◆お腹も空きますよ

 しかし、食欲にも驚かされる。

「OK!」

 のコマンドを待ちかねて、一三〇グラムのドッグフードを二〇秒ほどで平らげる。

 こうなると、食事か散歩か、甲乙つけがたいようだ。


 大した問題ではないので、それ以上の考察はしていなかった。こういう筆者の意表を突く、あることが頻発するようになった。


 ◆アレも格別です

 昼前のトイレを済ませると、ブラッシングの時間に当てている。コマンドは

「ツー・ザ・ベンチ!」

 これで、ブラッシング台のある軒下に直行する。


 最初は行儀が良かった。

 ベンチをセットするまで、じっと待っている。感心することしきりだった。


 そのうち「OK! ジャンプ」のコマンドも待たず、飛び乗るようになった。

 ブラッシング台の脚が完全にセットされていない状態でもジャンプする。ある時など、頭と頭が激突してしまった。筆者は強い衝撃を受けた。相棒のエヴァンは涼しい顔をしていた。


 ◆言われなくても

 何かの都合で、午前中にブラッシングできないことがある。そんな時は、夕方の散歩から帰ってブラッシングすることにしている。


 まず、玄関まで戻り、ハーネスを外す。いつもと違い、エヴァンはもうブラッシングに注意が行っている。家の中に入ろうという気は、さらさらないようだ。


 ブラッシング中、うっとりしている。片方が終わり、「ターン!」と声をかけると、反対側を向く。至福の時間のようだ。


 ◆三つとも◎だよ

 大体において、犬にブラッシングする習慣があったのかどうか。野山を走り回っていた時代は言うに及ばず、家庭で飼われるようになってから、そうとう後のことだろう。


 盲導犬の場合、幼時から愛情を注がれ、ブラッシングなどの手厚い世話を受けている。

「虐待されて、狭いゲージに押し込まれ、ろくに食事、散歩の機会も与えられず、糞尿まみれの犬もいるんだよ」

 エヴァンを含め盲導犬を見るたびに、不幸な犬たちのことを想う。


 散歩か食事か、はたまた、ブラッシングか。どうやら、三つとも正解のようだ。ひとつとして盲導犬には、欠かせない。

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