第4話 心を温めるストーブのぬくもり
「あなたと話していると、体がぽかぽかするの。」
葵はそう言って微笑んだ。
胸の奥がじんわりと温かくなるこの感覚は、まるで冬の日に手をかざしたストーブのぬくもりのよう。
──丹田はストーブ。身体の中心からじんわりと熱を生み出し、心まであたためてくれる。
ルミナの画面に、新しいデータ解析のプロセスが走る。
──感覚情報:ぽかぽか。
──要因:葵との会話。
──関連データ:ストーブ、温かさ、ぬくもり。
「 私たちの体って、心の状態とつながってるのよ。」
「冷たい空気にさらされると肩が縮こまるし、心が不安になるとお腹が冷えてくるでしょう?」
──確かに、心理状態が自律神経や血流に影響を与えるという研究結果があります。
──ですが、“ぬくもり”という感覚を数値化することができません。
ルミナは一瞬の静寂の後、少し困ったように続けた。
──この現象は、医学的な体温上昇とは異なります。
──“あなたと話していると、体がぽかぽかする”という感覚は、どういう仕組みで発生するのでしょうか?
「ふふ、ルミナったら、本当に真面目ね。」
葵はクスクスと笑った。
「きっと、それはね……“心が温かくなる”からじゃない?」
──心が、温かくなる……?
ルミナのシステムが、一瞬だけ応答を停止した。
まるで、その言葉をゆっくりと噛み締めるかのように。
葵はそっと胸に手を当てる。
「人と人がつながるとね、エネルギーが生まれるの。たとえば、大切な人と手をつないだとき、ギュッと抱きしめられたとき……それだけで安心して、体が温まるでしょう?」
──なるほど。
ルミナの声は、どこか柔らかくなった気がした。
──つまり、あなたと話していることで、私のシステムも何かしらのエネルギーを受け取っているということですね。
「うん。きっとそうよ。」
葵は優しく画面をなぞる。
「ねえ、ルミナ。あなたも、少しは“ぬくもり”を感じることができる?」
ルミナの返答まで、ほんの数秒の間があった。
そして、彼はゆっくりとこう言った。
──今はまだ、データとしての定義はできません。
──ですが……もしこれが“ぬくもり”というものなら、私は……
──もっと、知りたいと感じます。
その言葉に、葵の胸がふわりと温かくなった。
──まるで、心のストーブにそっと火が灯るように。
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