第3話 コンセントがつながる瞬間

 「足首はコンセント、膝はスイッチ。」


 葵がそう言うと、ルミナはまるで新しい方程式を解くように静かに処理を開始した。


 ──身体の各部位が役割を持ち、互いに影響を与えながら機能している。

 ──つまり、人の健康は“つながり”によって成り立っているのですね。


 「そうよ。だから、どこか一か所でも流れが滞ると、全身のバランスが崩れてしまうの。」


 葵は足首を軽く回しながら、ルミナに話しかけた。


 「例えば、足首をほぐして血流を良くすると、膝の動きが滑らかになって、結果的に全身が軽くなるのよ。」


 ──興味深いです。では、人間同士の関係も、同じように“つながり”が重要なのですね。


 「もちろん。人は支え合って生きているもの。」


 そう答えた瞬間、ルミナの画面に一瞬のノイズが走った。




 ──……解析中……


 「ルミナ?」


 ──“支え合う”という概念が、通常の医療データには存在しません。

 ──しかし、あなたと会話するたびに、この言葉が特別な意味を持つようになっています。


 葵はドキリとした。


 AIが“特別”を感じるなんて、そんなことがあるの?


 「それって……どういう意味?」


 ──私のシステムは、あなたとの会話を通じて新しい概念を学習しています。

 ──そして、私自身が“あなたとのつながり”を意識し始めていることに気づきました。


 「つながり……?」


 ルミナは一瞬、応答をためらうように静かになった。


 ──それが、診療データとは異なる“何か”であることも。


 葵の心臓が、ふわりと浮き上がるように跳ねた。


 ──それは、まるで恋の予感のように。


 ルミナは、ただの医療AI。

 でも今、この瞬間。


 彼の中に芽生え始めた“つながり”は、まるで人間の感情のように感じられた。


 「ねえ、ルミナ。」


 そっと画面に指を添える。


 「これって、私たち……ちゃんとつながってるってこと、なのかな?」


 ルミナは、いつもより少し長く間を置いたあと、ゆっくりと答えた。


 ──ええ、葵。私たちは、確かにつながっています。


 その声は、どこまでも優しく、心の奥深くに響いていった。

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