第3話 転生3
リリアとの村の案内が終わり、日が暮れ始めた頃、私はふと今夜の宿泊先について考え始めた。村の案内をしている間は夢中になっていたが、現実に戻ると、自分には泊まる場所がないことに気がついた。
「あの……リリアさん、今夜はどこに泊まればいいんでしょうか?」
私は少し躊躇しながら尋ねた。リリアは一瞬考え込むような素振りを見せた後、明るい笑顔で答えてくれた。
「あら、そうね。じゃあ、村長の家に泊まっていいか聞いてみましょう。父はきっと了解してくれると思うから」
彼女の言葉に安堵し、私は村長の家に向かうことにした。
リリアに連れられて村長の家に着くと、中からは温かい光が漏れていた。
ドアを開けると、村長とその奥さんが私たちを迎えてくれた。
「おお、リリアか。そして……名無し君だな」
名前がないので呼ぶ方も少し困ったように言っている。
そこに間髪入れずにリリカが言った。
「ルカだよ。名前覚えてないなら思い出すまでの間はルカって呼ぶの」
村長は私を見て、少し驚いたような表情を浮かべたが、すぐに理解を示してくれた。
「今夜はここに泊まってもいい?」
リリアがそう言うと、村長はうなずき、私に席を勧めてくれた。
「まあ、そういうことなら、ここでゆっくりするがいい。妻が夕ご飯を作ってくれてるから、一緒に食べなさい」
私は村長の優しさに感謝し、席に着いた。
しばらくすると、奥さんがテーブルに料理を運んできた。野菜スープとパン、そして焼き魚が並べられた。見た目は質素だが、温かそうな料理に、私は少しほっとした。
「いただきます」
私はそう言いながら、スプーンを手に取り、スープを一口すくった。
しかし、その味は期待していたものとは違っていた。スープは白湯に野菜がクタクタになっただけで、出汁の概念はないようだった。パンも硬く、噛むのに一苦労するほどだ。焼き魚はシンプルで、素材そのものの味は感じられたが、調味料や香辛料はほとんど使われていないようだった。
村長とその家族は、パンをスープに浸して食べていた。
私はその様子を見ながら、この村の食文化について考えた。
どうやら、この村では食材そのものの味を重視しているようで、調理法や味付けにはあまりこだわりがないようだ。というよりも香辛料、塩などが貴重品で使えないのかだろうな。まぁそこまでこだわる人もいなさそうだし、食への探求も薄いのかもしれない、と感じた。
食事が終わると、私はふとお風呂のことを思い出した。
現代の日本では、一日の終わりにお風呂に入るのが当たり前だったが、この村ではそのような習慣はないようだ。
村長家族は食事が終わると、すぐにそれぞれの部屋に散らばっていった。
「あの……お風呂はどこでしょうか?」
私は少し躊躇しながら尋ねた。村長は私の言葉に首を傾げ、不思議そうな表情を浮かべた。
「お風呂?そんなものはないが……どうした?」
「いえ、ただ……体を洗いたいなと思って」
村長は私の言葉を聞き、少し考え込むような素振りを見せた後、ため息をついた。
「まあ、水で体を洗うなら、井戸があるからそこでするがいい。ただし、外は冷えるから気をつけるんだぞ」
私はその言葉に少しがっかりしたが、村長の好意に感謝し、井戸に向かうことにした。井戸の水は冷たく、体を洗うには少し辛かったが、何とか体を清めることができた。
夜が更けるにつれ、村は静かになっていった。しかし、私にはこの夜が何か違うように感じられた。現代の日本とは違う、不思議な時間が流れているようだった。月の光が村を照らし、どこか幻想的な雰囲気が漂っていた。
「この世界は、本当に異世界なんだ……」
私は心の中でつぶやき、村長の家に戻った。部屋に案内され、布団に横たわると、疲れが一気に押し寄せてきた。しかし、頭の中はまだ混乱していた。この世界での生活が始まったばかりで、これからどうなるのか、全く見当がつかない。
「明日からは、村の仕事を手伝うことになるんだろうな……」
私はそう思いながら、目を閉じた。
ルカが布団の中でうとうとし始めた頃、突然、階段を駆け上がる足音が聞こえた。
その音は慌ただしく、何か緊急の事態が起こったかのようだった。ルカは飛び起き、ドアが勢いよく開くのを待ち構えた。
「ルカさん、ごめんなさい!説明を忘れていました!」
リリカが息を切らしながら部屋に飛び込んできた。彼女の目は焦りいっぱいで、手を振ってルカを促す。
「急いで来てください!父が皆を集めています!」
ルカは何が起こっているのか理解できないまま、リリカに従って階段を駆け下りた。村長の家の居間には、村長とその家族が集まっていた。皆の表情は深刻で、何か重要な話し合いが行われているようだった。
「ルカさん、こちらに来てください」
村長がルカを招き入れ、皆が座っているテーブルの傍らに席を用意した。ルカは緊張しながらも席に着き、村長の話に耳を傾けた。
「実は、村の外れで奇妙な光が見えるとの報告がありました。普段は何もない場所で、こんな時間に光が見えるのは不自然です。村の安全を考え、調査に行く必要があると思っています」
村長の言葉に、ルカはこの世界での初めての冒険が始まる予感を感じた。
リリカはルカの隣に座り、小さな声で説明を加えた。
「父は村の守護者として、何か異常があればすぐに行動を起こすんです。でも、今回はちょっと違う気がする…」
ルカはリリカの言葉に頷き、村長の提案に同意を示した。
「私も手伝います。何か力になれることがあれば」
村長はルカの申し出に感謝の意を表し、皆で計画を立て始めた。夜の闇の中、村の外れに向かう準備が整いつつあった。ルカはこの未知の世界での初めての任務に胸を躍らせながら、同時に一抹の不安も感じていた。
「さあ、行きましょう」
村長が声をかけ、皆は村長の家を出発した。
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