私が一緒にいて本当に幸せになれる人
桜森よなが
幼馴染み
私には嫌いな幼馴染がいる。
顔も性格も別にいいわけじゃなくて、勉強や運動ができるというわけでもなくて、なにか特技があるわけでもなくて、何もかも普通な男。
家が隣なので、小学生から高校生になるまでずっと一緒に帰っているけど、正直、もっとイケメンの男が幼馴染だったらなってよく思う。
「なんだよ、なにじろじろ見てんだよ、そんなに俺の顔が好きか?」
ある日の通学中に、幼馴染みの太一がそう言ってきた。
「は? んなわけないでしょ、バーカ」
私はスマホを操作して、推してる男性アイドルの画像を表示させる。
「ほら、これよ、これ、これが私の好きな顔、あんたとは全然違うでしょ」
「なにこれ、こんな女みてぇな顔の奴がいいのか、俺の方がかっこいいだろ、これなら」
「え……それ、本気で言ってる?」
「んだよ、その顔は。たく、バカにしやがって」
とすねたかんじで彼は足の回転を速くして、私の先を歩いて行ってしまう。
まったくもう、ほんとガキなんだから。
あーあ、イケメンで金持ちで運動も勉強もできて優しい、そんな男に告白されないかなー。
て思っていたら、その翌日、体育館裏で、なんとほんとにそんな男に告白されてしまった。
「好きです、俺と付き合ってください」
バスケ部の長身イケメン、
運動も勉強もできて、噂によると性格もいいとか。
「むしろ私の方からお願いします!」
ということで、私、イケメンの彼氏、ゲットしちゃいました、イエーイ!
早速、帰りに、太一にそのことを報告した。
「フフ、まさか一条君に告白されるなんて、私ってかわいいからなー」
「へーよかったな」
「今度の休みにね、デートするの」
「そうかそうか」
「なによ、さっきから返事、適当じゃない?」
「興味ねぇもん」
「あっそ」
たく、そんなんだからモテないのよ、あんたは。
そして週末になり、デートの日になる。
私、15分前に来たのに、一条君は既にいて、「遅くなってごめん」って言っても、今来たとこだよって言ってくれる。
「一条君は優しいね、太一なら文句言ってきたよ」
「そうなんだ」
私たちは映画を見に行った。
映画を見た後は、おしゃれなレストランで食事をした。
食事の最中、先ほど観た映画の話をした。
「映画、面白かったね」
「うん、ふふ、さすが一条君だね、太一だったら、ああいう映画、つまんねーとか言ってきたよ」
「へーそっか」
その後はショッピングモールに行って、服を見たり、ゲームセンターでゲームをしたりした。
一条君は車道側を歩いてくれるし、映画も食事もゲームも全部おごってくれたし、ほんと完璧だった。
何もかも太一とは大違い。
「今日は楽しかった、ありがとう、一条君」
ショッピングモールから出た後、一条君にそう言うと、彼はピタリと止まって、私をじっと見つめてきた。
「どうしたの、一条君?」
「ねぇ、鈴村さんは、今日、俺とデートして、幸せだった?」
「え、なに急に、すごく楽しかったけど、なんで?」
「ほんとに?」
「う、うん」
「いや、違うよ、もしほんとなら、なんで君は町田君の話ばかりしていたのかな」
「え」
言われて、気づいた。そういえば、私、太一の話ばっかりしてたかも。
「ねぇ、君は、本当に俺のことが好きなのかな?」
そう言われて、ハッとした。
私、デート中も今も、太一のことばっか考えてた。
一条君はすごく素敵なのに、完璧に私をエスコートしてくれたのに、なぜだかあまり幸せだって今、思えてない。
思い浮かぶのは、太一の顔ばかり。
ああ、そうか、私、あいつのことが好きだったんだ。
「一条君ごめん、あと、ありがとう、私、別の人が好きだったみたい」
「うん、今日、それがよくわかったよ」
私は深く頭を下げて謝った後、一条君と別れた。
そして、トークアプリを使って太一を家の近所の公園に呼び出した。
「遅い、何だよ話しって」
公園に着くと、太一は既にそこにいて、ベンチに座っていた。
私はそんな太一に大声で言う。
「私、太一が好き!」
「は、はあ、なんだよ、急に。お前、一条のことが好きなんじゃなかったのかよ」
「そう思ってた、でも違った」
「意味わかんねぇ、付き合ってるんだろ」
「もう別れたよ」
「嘘だろ」
「嘘じゃない、これが証拠」
そう言って、私は太一の頬にキスをした。
「な、なにすんだよ、いきなり」
「これが一番伝わるかとおもって」
「……たく、ほんと変な女だな、お前は」
「で、その変な女のこと、あんたはどう思ってんの?」
「……俺も好きだよ、お前のことが、ずっと前から大好きだったよ」
そう言われて、私は思わず顔がにやけてしまう。
そして思った。
ああ、幸せだって。
「何だよ、その顔は、気持ちわりい」
「あーひっどーい、女の子になんてこと言うの、バカ」
「うっせ、お前の方がバカだわ、バーカ」
「なによ、バーカバーカ!」
なんて罵り合いながらも、私は楽しかったし、あいつも笑顔だった。
その後、私たちは夜道を、手をつないで帰った。
私が一緒にいて本当に幸せになれる人 桜森よなが @yoshinosomei
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