閑話3

ボードゲームは私の勝利だった。マホガニーは寝ていたからそれ以外の全員でやったのに、威勢の良かった二人と男たちでかなりの点差があった。

「…アイリ、私の勝ちですね。」

「いや、サイコロの出目が少し良かっただけで二人ともずっと動き方ひどかったよ。」

「だって!知らないゲームなんだからしかたないでしょ!?初心者いじめて楽しい!?」

「俺たちも初めてやるゲームだぞ。そりゃ、似たようなゲームはやったことあるけどな。」

「そんなのずるい!ハンデとかないとおかしいでしょ!?」

いやあ、そんなことないと思う。というか、ずっとあったはずのゲームをやったことないって、私たち今までどうやって時間潰してたのだろうか。携帯とか、パソコンを眺めて時間を消費していたのか。それとも筋トレとか、訓練が時間のほとんどを占めていたのか。でもこの体は筋骨隆々でもないし、基地にあるトレーニング室はグラーズ以外使っているのを見たことがない。前の自分を知りたい。

「じゃあアマガサ!私と一緒にやってよ!それでフェアでしょ!?」

いったいどこがフェアだというのか。それじゃグラーズが勝つだろう。

「いいですよ。班長もろとも泣かせてあげます。ルールは理解しました、もう下手は打ちません。」

いったいどこからその自信が来るのか。なんだかコテンパンにして泣かせてみたくなってきた。

「わかった。全力で潰してあげるよ、カミュ。」

「大人げないぞ、班長。」

「いいわよアマガサ!やっちゃって!」

やるか。ワンサイドゲームってやつ。


——————————————————————————————————————


「やった!勝った!」

「…さすが班長。お見事です。」

「班長強いな。出目はそこまでよくなかったのに、プレイングが見事だった。」

アイリと交互にプレイして、なんとか勝つことができた。3歩進んで2歩下がるような戦いだった。もっとも、カミュは下がり続けていたけど。さっきのプレイ時間の、倍以上はかかった。そもそもそこまでよくもない頭をフル回転させて、数手先を考えて初めてアイリのカバーができた。いやぁ、疲れた。胡坐をかいて座っている状態を維持したまま、後ろに倒れる。

「次は頭を使わないゲームをしない…?もう頭を使うのはこりごりだよ…」

「一人だけ疲れすぎだろ。どんだけ考えたんだ、班長。」

「あんたねぇ。まだ寝る時間には早いんだから、まだまだ遊ばなきゃ!」

誰のせいで疲れたと思っているんだ、この子。どうしてこんなに元気なんだ。次からは体を使う遊びを一人でさせておくべきかもしれない。

「いいですよ。私は運もいいことを教えてあげます。」

「ふん!好きなだけいいなさい!二人で倒してあげるわ!」

「どうしてまたペアでやることになってるの…?頭つかわないなら、一人でできるでしょ…?」

「…今日はもうお開きにしよう。班長、お疲れ様。」

私を慮って休戦協定を提案してくれた。正直、もう遊びに付き合うのもできないくらい疲弊しているからありがたい。

「え~?まだできるわよね?ね?」

どうして私を巻き込もうとするんだ。

「私とアイリとの戦いはまだ終わってません。班長、お疲れなのは重々承知ですがもう少しお付き合いください。」

君も私を巻き込もうとしないでおくれ。君は仕事以外のところではどこかおかしいよ。

「二人で戦えばよくないか?どうして班長を挟んで戦おうとするんだ二人とも。」

もっと言ってくれ、グラ。

「私はレフェリーでもトロフィーでもないよ…休ませてよ、お願いだから…」

「…わかった。じゃあ、みんなでゆっくりしましょ。決着は明日に持ち越しね。」

明日もこれやるの?私を間に挟まなくても二人で戦えばよくない?

「私入れる必要ないでしょ?二人でできるゲームやったら…?」

「あんたがいないと楽しくないでしょ?なんか文句ある?」

「二人でも楽しいと思うけどなぁ。まあ、また明日何もなかったら、みんなでやろっか。次はマホも起きてるといいね。」

「あいつ、ボードゲームとかめちゃくちゃ強いぞ。目が見えないから、できないゲームもあるけどな。」

「へえ。あの人とゲームとかやってるのね、グラーズ。私見たことなかったわ。」

「お前が班長と仕事ばっかしてたからだろ。というか、お前が遊ぶところなんて初めて見たよ。仕事以外してるところ、ほとんど見たことないぞ。まあ、班長もだが。」

カミュも私も、どんな生活してたんだろう。私がずっと仕事をさせていたのだったら、とんでもないブラック企業じゃないか?死ぬことが前提なのだから、ブラックどころじゃないのけれど。

「どんな生活してたのよあんた。楽しかったのそれ?」

言い方がきつい。確かに楽しくはなさそうだけれど、仕事にやりがいを感じていることもあるだろうに。

「まあ、楽しいとかそういう話ではないですから。というか、私に言えるほど楽しい人生歩んできてるんですかあなた。」

「カミュ!?それだけは言っちゃダメでしょ?アイリ?気にしなくていいからね?」

「こんなクソガキのこと、気にする必要ないですよ班長。」

「あんたも私にクソガキって言えるほど性格よくないでしょ。仕事仲間と遊んだりしたことないんだから、疎まれてるわよ、あんた。仕事だけできればいいわけじゃないのよ。」

「アイリ?売り言葉に買い言葉だよそれじゃ?」

二人の目線がぶつかって、火花が散っているのが誰の目にも明らかなほどだ。近隣温度が急上昇している気すらする。

「疎まれてるというか、仲良くなろうとしてなかっただけだぞ。最初のころは遊びに誘ってたんだけどな、全部断られたよ。まあ、疎まれてるってのもそう間違ってはないがな。」

「グラ、火に油注がないで?前の私たち、どれだけ仲を深めようとしてなかったの?」

「大体すぐ死ぬからな。長くいるのは俺とマホとカモミールと班長くらいで、他は入れ替わり立ち代わりだったぞ。」

前の私、命を軽く扱いすぎだろう。そのくせ自分は命の危険が少ない後方にいるって、班長という立場ではあっても嫌な奴だ。

「…私もすぐ死んじゃうのかな。いや、それを覚悟してきてるんだけどさ。」

「大丈夫、そうならないように頑張るよ、私。人が死ぬところなんか見たくないし。」

「…班長。任務で死ななくとも、病気が進行しきる前にどうせ魔獣にならないように殺されるんですよ。仕事の中で死ぬほうが、よっぽど幸せじゃないですか?」

「それは人によるでしょ、多分。私はゆっくり死にたいけどね。」

「班長、これからもそうであってくれよ、本当に。」

どうしてか、念を押された。人が死ぬところを見たい人なんてそこまでいないだろう。

「わかってるよ。」

もちろん、これ以外の答えはない。当然の返答だった。

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