3-3話

「もしものことがあればこれを。まあ、そうなることはないでしょうけれど。」

その言葉の中には確かな自信と、力強さがあった。二人への信頼なのか、自分への信頼なのか。

「ありがとう。えっと、私は何をすればいいのかな。」

「今回はなにもする必要はありません。私たちの役目を、ただ見届けてていただければ。」

私が来る必要、なくない?見てるだけ?少し遠くで鳴り始めた銃声と、化け物の叫び声。もう終わりに近づいているような気がする。手持ち無沙汰な私は、少し周りを見渡す。

「いいですか班長、班長の基本の役割は司令塔になることです。基本は私とともに…」

彼女の講釈を片耳で受けていると、ふと視界に影が映る。視界を凝らす。人影が映る。少し体を前に乗り出して視界に映す。小さな人影が映る。

なぜだかそちらに走り出す。カミュの講釈が遠くなる。走る。もう聞こえなくなるくらい遠くなった時に、その影の答えがわかる。

子供だ。誰だかわからないけれど、小さい子供だ。いたいけな、とでもいうべき子供。建物の影に隠れて私に対しておびえている。

「…大丈夫。そう、大丈夫。こっちに…」

人命救助。資料にそう、書いてあった。私の行動に間違いはない。はずだ。震える体を無理やり抑えて、子供はこちらにずりずりと体を近づける。

「大丈夫。こっちに来て。ゆっくりね。」

そういって、こちらに近づいて来た子供を抱える。そうだ。仕事をした。なんでもない自分が。緊張がするすると緩んでいく。それで気づく。そこに、魔獣。あの蜘蛛程ではないけれど、私と同じくらい大きな蜘蛛のような魔獣。私が獲物なのか、こちらに視線を向けたままに体だけゆっくりと近づけてくる。腕の中の子供とは君は違うのだから、あまりこちらに近づかないでほしい。渡された銃はどこだっけ、そうだ腰の近くだ。子供を無駄にしっかりと抱えてしまったせいで、銃を取り出すにも少し時間がかかるだろう。この距離じゃ、凄腕ガンマンでもなければこいつを撃ち抜けない。

詰み。頭の中に、答えが浮かばない。どうする。どうする?どうしよう?頭のCPUがどれだけ処理をしようと、核心の周りをなぞっているだけでボタンは押せない。

時間が解決してくれないどころか、ただ浪費して無駄にしていく。最後の情けない答えだけが、ああ頭に浮かんで、私を否定する。

「これしかないか…」

腹は決めた。もはや一触即発の距離にいる魔獣は、私が動けばとびかかってくるはずだ。そうであれ。

ばれないようにぐっと体に力を込める。乱れないように、どうにか息を整えて。


「カミュ!」


私がそう叫び、腕の中の命ごと思い切り後ろに倒れこむ。視界の上、飛び込んできた彼女が銃をぶっぱなす。バンッ、バンッ、バンッ。視界に映らない奇声が、はじけ飛んで滲む。勢いづいてそのまま、二人して太極図のように倒れこむ。二人の、切れているわけでもないのに大げさな呼吸音だけ、響く。成功だ。賭けに勝った。私たちの信頼の勝利だ。ばかばかしい自信、それがあったから。少し呼吸を整えて、つぶやく。

「あー。ありがと、カミュ。グッジョブ。」

「…ふざけてます?」

倒れこんだまま、彼女は怒った。

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