3-2話
目的地につき、私たちが降ろされた場所はどこかのビル街だった。
ビルといえるのかわからないほどの中途半端な高さの建物が、サバンナのアカシアの木のように疎らに生えていた。
「ここから1㎞ほど先に標的がいます。班長を囲むように移動しましょう。」
カミュがそう告げると、ほかの二人が何も言わずに私の後ろの左右につく。特別扱いだ。
「いこうか。」
特に意味のない命令をして、前に歩み始める。
沈黙が四人の間に流れる。任務で、緊張感がある状況に置かれている人間が世間話をするのもおかしいはずなのでこれでいいのだろうけど、私からしたらほぼ初対面の人たちだ。会話がないというのもなんだかこそばゆい。四人の個性ある足音が、崩れたリズムを奏でて少しずつずれていく。こそばゆい。周りが色も音もないコンクリートジャングルのせいだ。市民はすでに避難しているのか、人の気配なんて何にもない。
「いますね。総員、戦闘態勢に入ってください。」
カミュがただそう告げる。何がいるのか、戦闘態勢がなんなのか、説明は一つもない。私は戦闘要員ではないだろうからこれでいいのかもしれないけれど、いたたまれなくなる。
曇る視界をこすり、前に何がいるかを必死で確認する。私が見える視界の限界、広い交差点のそこに、何者でもない何かが鎮座していた。人よりも大きい、車なんて比にならないくらいの蜘蛛のようななにか。絡新婦とか、そういった美しい言葉で表せないなにか。もっと近くにいたならば、恐怖で足をからめとられて動けなくなっているだろうなにか。そういう、なにか。
資料で見ていたいくつかの写真とは全く違うけれど、あれが私たちが退治しなければならない「魔獣」なのだ、きっと。
「マホガニー、グラーズ、前へ。」
彼女は冷静に、抑揚のない声でまた、ただそう告げる。後ろから風を感じたその時には、二人は前に駆け出していた。彼女は手の中のハンドガンを慣れた手つきで装填し、私に優しく手渡す。
「もしものことがあればこれを。まあ、そうなることはないでしょうけれど。」
その言葉の中には確かな自信と、力強さがあった。
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