2-1話

「おはよ〜。いい夢見たかいみんな?」

身長の低い女性———資料によると名前はマホガニー———は、気の抜けた声で無駄な質問を投げかけてくる。

「おはよう。今日は悪夢だったよ。」

とりあえず適当に返す。私が記憶喪失だとばれたら心配されるかもしれないし、これくらいの会話なら違和感も持たれることはないだろう。

「…?班長、なにかあった?」

どうしてこれで違和感を持たれるのだろうか。かつての私はこんな普通の返しはしない面白人間だったのか。

「班長は今記憶喪失なの。わからないことがあるだろうから、よろしくね。」

私の隣でソファに座って本を読んでいたカモミールが、視線を本から外さずに私のちょっとしたタブーにずかずか入って門をぶち壊した。彼女はそういう人なのだと、二人で料理をしてわかった。

「え〜?班長、記憶喪失?じゃあ私のこともわかんない?」

「そうだね。でも、カモミールがくれた資料を読んだから何となくはわかるよ、マホガニー。」

「そっか。そっかぁ。じゃあ自己紹介は必要ないね?」

なぜか喜ばしそうな顔で、彼女は大げさにうなづいた。資料には面倒くさがりと書いてあったから、自己紹介もしたくなかったのかもしれない。

「でも、君がちゃんと起きてくるなんて思わなかったよ。資料には『睡眠時間が長い』って…」

「そりゃあ私でもたまにはちゃんと起きるよ〜?それに夜になんかうるさかったんだからさ~。」

「ああ…ごめん。」

「えーっと?別に謝ることじゃないから大丈夫だよ?でもありがとね?」

自分が初対面の人と話すのが苦手なんだと、痛感させられる。

「マホ、班長困ってるだろ。おはよう、班長。」

マホガニーの後ろから昨日の巨漢、グラーズが現れる。彼女と二倍くらいの差がある気がする。

「グラーズ。グラーズ、であってるよね?おはよう。」

「…ああ。あってるよ。おはよう。昨日は寝られたか?」

やはりこの人たちは私に対してやけに優しいな。いい人たちだ。

「まあ、寝られはしなかったけど。カモミールと一緒に料理したよ。二人も朝ごはん食べる?簡単なものなら作るよ?」

二人がなぜか顔を見合わせる。たかが班長の私が、料理をすることはおかしいのか?

「あ、ああ。そ、そうだな。頼むよ、班長。」

「わかったよ。じゃあ食パンと、簡単なものを焼こうかな。」

私が料理をするために立ち上がると、隣にいたカモミールも何も言わずに立ち上がった。

「私も手伝います。」

私はそれに軽く感謝を伝えると、また二人でキッチンに立った。

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