第3話 帰れない
1962年4月7日土曜日AM6:30 。
中野新谷と小鳥遊マドカはワーゲンのカブトムシ(ビートル)魔改造したタイムマシンの誤作動により2人は昭和37年に送り込まれてしまった。この時代は第二次世界大戦が終わって10年足らずでようやく落ち着いた世の中だ。
「どうすんだよ!昭和37年何かに来ちまって!」
「何を怒っている?大丈夫だ。」
「何がだ!」
「タイムマシンで来たんだぞ。だったら普通に帰れるだろうが。何を慌てる必要がある」
「じゃあ、あの煙は何だ?」
マドカは前を見るとタイムマシンのボンネットから煙が上がっている。
「げ、まずい!」
マドカは慌てて外へ飛び出してボンネットを開けると黒煙が上がる。
「ゲホゲホ!うわぁ…部品が金属疲労を起こしてる…」
「は?金属疲労だって…まさか壊れたの…」
「何を当たり前の事を言っているんだ?見ての通り壊れてしまったんだ」
「ふざけるなっ!!」
新谷は怒鳴りながら外へ出た。
「冗談じゃない!こんな時代に足止めかっ!?どうしてくれるんだよ!!」
「心配は無いさ。直せばいいだけだ」
「は?直す?どうやって?部品無いんだろ?」
「大丈夫だ。壊れた事を想定してちゃんと簡易式ユニットの設計もしておいたのさ!」
何を訳わからない事をまた言ってるんだ?
「何を言ってるの?」
「つまり壊れた事を想定してちゃーんと修理に使えるユニットの設計図も用意してあるのさ。」
マドカはそう言って白衣から配線図を取り出した。
「何これ?」
「タイムマシンの修理に必要な部品一式をこの時代で調達してこれを組み立てればタイムマシンを作動させるのは容易だ!」
「いや壊れた箇所はその図面に当てはまる場所なの?」
「え?」
「いや図面があっても何処が壊れたかわからなきゃ意味無いし、その想定はもしかしてタイムマシンだけな訳?タイムマシン以外の箇所なら直せる訳?」
「…」
マドカは黙り込んだ。
マドカは改めてボンネットの中を除いた。
「あははは…タイムマシンの方じゃないかった…どうしよう…スターターがイカれてるわ」
「は?」
「つまり車は動かない」
「それじゃ…どうすんの…」
「心配無用だ!私が修理するから大丈夫だ!」
「我流で直すなら素直に修理に出したらどうだよ」
「馬鹿を言うな私のカブトムシは1980年代の代物だぞ。この時代にはまだ無いんだぞ!」
「外車って言えば通じるだろ」
「フォルクスワーゲンのビートルは日本製のレアな車だぞ!」
「まだ世に出てないなら外車で絶対通じるって!とにかく車を修理してもらえよ。いくら80年代でも車の構造に大差は特に無いんだろ。だったらこの時代でもスターターくらいは直せるだろ」
「わかった…町工房に頼んでスターターは修理する」
渋々納得するマドカ。
正直なところ車は余り知らない。
「でも問題はお金だ。僕らこの時代のお金なんか持って無いよ」
「心配ないさ。私の緊急特別費を使う!」
緊急特別費?
マドカは車から重そうな瓶を取り出した。
中には100円と10円更に1円がびっしりだ。
「どうだ。私の積もり貯金だ!30万はあるぞ!」
「そんな小銭だけで修理出来る訳ないだろ。30万なんか修理に使ってあっという間だ!」
「大丈夫だよ。この時代の物価を知らないのか?」
「物価?何か違う訳?」
「昭和30年代は物価が凄い安いんだよ。こんな小銭も大金なのさ!中野はここで待っていろ私は町まで行って人を呼んでくるからな!」
「あ、待って!」
マドカはそう言うと空き地から出ていった。
「どうすんだよこれ…」
新谷はとりあえず座り込む。
暫くしてレッカー車がやって来た。
中からマドカと中年が出て来た。
「アレかい?直して欲しい外車ってのは?」
「ああ、頼むよおっちゃん!」
もう仲良くなったのか?
連れて来た人は車のボンネットを開ける。
「ああ、こりゃ酷いな…」
「直せそうか?」
「時間はかかるがな。1週間はかかるが何とか直せるぞ」
「本当か!」
「ああ、大丈夫だ。この車レッカーしていいかい?」
「ああ頼む」
車はフックに取り付けられた。
「じゃあ、前払いで2000円だ」
「え、安っ!?」
「良し!」
マドカは10円を200枚渡した。
「確かに!じゃあ嬢ちゃんさっきの店に1週間後に来てくれや。」
「ああ、ただしスターター以外は絶対に触るなよ」
「わかった!」
男はそう言うと車を引いていった。
「アレ誰?」
「知らん町工場のおっちゃんらしい。車を直せると聞いたから連れて来た。私の金を見ると目をキラキラしていたぞ!」
「でも2000円で車修理なんてどうなってんだ?」
「だからこの時代はなんでも安いんだよ凄く!駄菓子なんか50円で腹一杯食えちゃうよ!」
確かに昭和30年代は物価が違うからあんな10円に倍以上の価値があったとは聞いた事はあるが。
「さて、車は大丈夫だな。良し次は町へ行って腹ごしらえをするぞ!」
「え、ちょっと待ってよタイムマシンはどうなるのさ?」
「故障したのは車の方だ。燃料さえ補給すれば大丈夫だよ」
「でも、ニトロなんてこの時代で買える様な代物じゃないだろ?」
「ああ、第二次世界大戦の影響でまず買えないからな。だから私が作るのさニトロを!」
は?作るってニトロをか!?
「やめろよ!失敗したらドカンだぞ!」
「心配するな私は天才だ!ニトロくらいは朝飯前さ。初めて作るがな!」
「余計にやめてくれ!」
「だがな、ニトロが無いとタイムスリップは出来ないんだぞ」
「う…」
「わかったら腹ごしらえして薬屋へ行くぞ!」
「背に腹はかえられないか」
新谷はマドカについて行く。
2人は昭和の商店街へやって来た。
古い街並みは令和でもはやお目にかかれない物で溢れていた。木製の電柱、ブラウン管のテレビに昔の八百屋に魚屋肉屋に喫茶店まで全てもう見る事は出来ない風景が広がっていた。
新谷達は喫茶店に入りコーヒーとパンケーキとサンドイッチをオーダーした。
「実に美味い!懐かしい味だ!」
「昭和のコーヒーって美味しいんだね」
「当たり前だ!昔の喫茶店ならではの深いドリップだからな!」
マドカはブラックコーヒーをすする。
見た目よりブラックコーヒーは苦くないし本当に飲みやすいな。
「で、材料はなんなの?」
「硝酸だよ!プロパンと加熱してニトロを作るのさ!」
「そんは簡単に言うけどさ、Dr.ストーンでさえ蝙蝠のフンで時間をかけて硝酸を作ったんだよ。そんな危ないもんで本当に作れるのか簡単に」
「Dr.ストーン?そりゃ誰だ?Dr.スランプの親戚か?」
「何?」
「ま、とにかくこの時代にも普通にある代物だ。何とかなるだろ金はあるし!」
パンケーキを頬張るマドカ。
「良し行くぞ!」
会計を済ませると2人は薬屋へ向かう。
だが、予想外の出来事が起きていた。
「は?売れないだぁ!?」
「お嬢ちゃん見たいな子供に売れる訳ないだろ。」
「誰がお嬢ちゃんだ!私は20歳だ!充分問題ないだろ」
「あのね、硝酸はね激物で一般販売はしてないんだよ。大学の教授ならまだしもお嬢ちゃん見たいな子供には絶対売る事はできない。」
「私はアメリカの大学を卒業したエリートなんだぞ!」
「アメリカだぁ!?お嬢ちゃんまさか米国被れか?」
「え?」
「出て行けっ!アメリカ被れに売る薬品はないわっ!!」
薬屋の主人は怒り狂いながら怒鳴り上げた。
2人は慌てて逃げ出した。
「な、何だ一体!?アメリカが何だ?」
「日本は第二次世界大戦でアメリカに負けたんだよ。そんな事言ったら怒るに決まってるだろ!この時代はまだ戦争終わってそんな経ってないんだから。ていうかどうすんだよ、材料は手に入らないじゃないか。おまけにあの様子じゃ多分他もダメだ!」
第二次世界大戦が終焉してまだ数年しか経っていない世の中だ。戦争反対で溢れているから危険物取り扱いも厳しくなり始めたばかりの時代だったんだ。
「しかし、参ったな…硝酸が無いんじゃニトロは作れない上にこの時代にはまだニトロエンジンなんて物もまだ無いしかもニトロは危険物だからこの時代では買えない上にF1にすらまだ取り入れられてない。だがニトロが無いと空間に穴開けられ無いから私達は元の時代に戻れないぞ」
「サラッと言うなよ…そんじゃどうすんだよっ!」
冗談じゃない昭和30年代に取り残されたなんて洒落にしちゃ酷すぎるよ。
バック→トゥザホ→ム 桐生連 @yusuke0907
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