第2話
私は一目散にこう答えた。
「その人が死んでいてもいいのか?」
鏡の男は言う。
「ああ、いい」
そうなると即答であった。
「亡くなった親父にあわせてくれ」
男は「承知した」と声を出し、
私に続けてこう言う。
「そうしたら、カウンターで
お前の親父さんが待ってる。行ってこい」
突如の言葉に気が動転していたが、
私は思い立ったようにトイレから出る。
客人が誰1人いないその場所で
私はその後ろ姿を見た。
二十数年前、事故で亡くなった父親だ。
私は駆け寄るように彼の横に座る。
「おう、裕彦か、元気にしてたか?」
背筋が伸び、しゃんとした親父は時間が止まっていたかのよう、若々しく、
清々しい身なりであった。
「親父、よく分かったな」
奥からマスターがやってきて私にレッドアイ、親父に生ビールを差し出した。
「裕彦、お前の呑んでるそれ、なんだ?」
私はガラスの持ち手を持って、こういう。
「トマトとビールだよ」
なかなか面白いものがあるんだな、
と親父は言った。
そのあとすぐに私たちは乾杯をする。
ぐいっと親父がビールを飲み込み、
私も続くようにそれを啜った。
「どうだ?最近は」
最近はというと、特にはない。
しかしながら話したいこと、言っておきたいことが溢れかえってしまい、頭が混乱している。
「2人目の子供が生まれた」
親父は笑みを浮かべて、
こちらに少し寄ってきた。
「2人目の孫か、1人目の子も見れてない」
そうだ、ある日突然、あんたは雲の上にいっちまったから。
「葉月と陸斗」
うん、と親父が頷いた後に
「おお、いい名前だ」と感心していた。
「一目見てみたいもんだな」と親父がぼそっと呟いたのをみて物悲しさを覚える。
「そっちは?こう見れないの?見守るっていうか」
「そんなそんな、見れねえよ。
仏さんとかは見えるみたいだけど」
ははっと親父が笑うのをみて私も笑った。
そうか、見れないもんなんだな。
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