23時29分37秒

雛形 絢尊

第1話

「おう、久しぶりですね、

どうぞお好きな席に」

粋で華奢なマスターは黒く襟のついた

半袖のシャツを着用している。

私は三軒目としてこの店に歩み寄ったわけだが、それにしても眠気がそそる。

周囲には若者が談笑をし、

ダーツをしたりしている。

暗闇の中に潜んでいるその蛍光ライトや

備品を横目に私はカウンターに座り込んだ。

右端の座席だ。

座高の高い席に座った途端。

若者の投げたバレルがブルズアイに刺さる。

私は右手をあげ、マスターを呼んだ。

彼がやってくる様子を確認し、

頼もうとしたレッドアイをやめて、マスターお勧めのものに差し替えようと、彼に聞いた。

「そうだね、お客さん、秘密の話があんだけどさ、ここだけの話だけどどう?聞く?」

私は飲み物を頼もうと、しかしながら彼はこんなことを聞いた。

私は訳もわからないまま、はいと答え、

彼の返答を待った。

「23時29分37秒に、ここのトイレの鏡を見てください、すごいことが起きますよ」

すごいこと?それはなんだと彼に問う。

「いや、お客さん、それを言ったらね、つまんないでしょ」と彼が言った後に、彼は「レッドアイね」と私の頭を見透かすように言った。

私はそれに驚いた。

私はそのまま、左手首にある腕時計の針を見る。あとおおよそ、1分半。

私は駆け込むようにTOILETと書かれたその場所に駆け込んだ。

決して綺麗とは言えないその場所で、

私は用も足さずに鏡の前で待っている。

目を見開いて凝視した。

目を開いてまた閉じた。

あと数秒、5、4、3、2、

鏡に見知らぬ男が映る。彼はいったい。

「ようお客さん。なんか用はあんのかい?」

は?と私は思考を停止する。

「いえ、別にないですけど」

「そうか、まあいい」

と彼はいい、こう続けた。

「あんた、会いたい人はいるかい?」

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