五章 4

「やっぱりあの二人組は金を持っていると思った。こんなにたくさんの金貨があれば……」

 ミンフェル領のメインストリートから横道に逸れた路地裏にボロボロの布を見に纏った子供がたくさんの金貨の入った袋の中を漁っていた。これは子供がとある二人組からスったものである。

「まあいいや。一旦家に帰ろう」

「そこの子供、少しいいか?」

「なんだ――げっ!?」

 したり顔でその場を離れようとする子供を呼び止める声が聞こえてきた。そこにいたのはそちらもまだ子供と言えるくらいの背丈の少年、その正体は世界最高の暗殺者である死神こと―――。子供は見るからに狼狽えた。まるでやましいことでもあるかのように。

「なんだ、人の顔を見てその反応は失礼じゃないか?」

「い、いや、こんな辺鄙なところに人なんて滅多に来ないから驚いただけだよ。それより、おにいさん何か用?」

「今、君が持っている袋なんだけどさ。俺の連れが無くしたのと一緒だと思うんだけど。どこで拾ったか教えてくれる?」

「何言ってるんだよ。これは俺の持ち物だぜ?」

 子供は―――に向けて若干の緊張を抱きながら答えていた。しかし、そんな子供騙しな言葉には―――が騙されるわけなんてなかった。

「そうか、その袋はどこかの貴族の家紋がついているように見えるけどな」

「うっそだ!? え、そんなんあったけ」

「へえ――自分のものの詳細は把握していないんだな」

「……はっ! カマかけやがったな!」

 逆に子供の方は―――のかけた誘導に最も容易く引っかかり怪しまれたことから一目散にその場を離れようとした。しかし、所詮は子供の身体能力、後ろを振り返って走ろうとした瞬間にはもうすでに―――が立っており、そのままぶつかってしまった。

「ほら、詰め所には突き出さないといてやるから大人しくそれを返せ」

「いいや、これは俺のもんだ。貴族の家紋なんてついていないぞ!」

「いやいや、無理があるよ。だって袋の中と君の身なりが一切釣り合っていない」

「なんでそんなんがわかるんだよ……って、袋がない!?」

 子供が持っていた袋はいつの間にか―――の手にあり、すでに中身の確認まで済んでいるようだった。どんどんと追い詰められていく子供。そんな中で一筋の光が見えた。

「あれ、死神さん。見つかりましたか? ……ってなんでそんな子供を捕まえているんですか!?」

「それはこ「大丈夫? 僕。こんな怖い人といて何もされなかった?」おい、話を聞け」

 そこに現れたのはミンフェル家に仕えているメイドのルーナ。ルーナは驚愕していた。屋敷に戻ったらルミエルに送ろはずのプレゼント用の資金が入った袋がなくなっていたのだから。みんなの給料から出されたお金がなくなったとしられたらまずいと思ったルーナは―――を呼び戻してもう一度街に出て行った。定めた時間までには屋敷にいることを条件に二手に分かれて行動を行った。そしたら、一緒に探しに行った―――が幼い子供を捕まえていたのだ。驚いてしまうのも無理はない。そして、子供にはルーナが自分を助かる光に思えた。

「こいつはスリだ。手捌きは俺でも気づかなっただが、わかりやすいくらいにぶつかってはいたからな。気配は覚えていた」

「うわ、変態みたいなこと言いますね」

 随分と仲の良いのか悪いのかがわかりにくい感じで話している二人を見て、見えていた光が怪しいものに感じた子供だったが、かと言って、―――から逃げ出そうとしても全然離されないどころかさらに力をこめられる始末であった。

「まあそれは一旦置いておいて。君、なんでこんなことをしたのか教えれくれる?」

 軽い言い合いが済んだのかルーナが子供に向けて優しい笑みを浮かべながら問いてきた。しかし、子供は硬く口を閉ざしたままだった。そのままダンマリを決め込もうとした。

「お、俺は母さんの病気の治療費のためにお金が必要なんだ!」

 しかし、その不退転の意思は一瞬で打ち崩されることになった。一瞬―――に顔を向ける子供であったが、そこで笑みを浮かべている顔と笑みからは考えられないくらいの悍ましさを感じた子供の口を割らせていた。

「そんな大変なことがあったんですね」

「ふーん」

「なんでそんな興味なさそうなんだよ!」

「流石にそれはあんまりじゃ……」

 ―――は子供の事情なんて知ったものじゃない。子供に声をかけたのはスリの実行犯だとわかっていたからでスリの動機はルーナが勝手に聞き始めたことで自分には関係ないとも思っていたから。

「でも、それなら真っ当に働けばよかっただろ」

「無理だよ。いくらなんでも一年で金貨10枚出せなんて。払うためにお父さんが色々頑張ってくれるけど」

 その言葉を聞いて、興味なさげな顔をしていた―――の顔が子供の方を向き始めた。そうして顎に手を当てて何かを考えていると、ニヤリと悪い顔をして子供に話しかけた。

「なあ、俺に一つ依頼してみないか?」

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