五章 5

「なあ、俺に一つ依頼してみないか?」

 俺はスリの子供に向けてそう言い放った。別にこの考えにはある打算があることにはあるが、こいつの話を聞いてどんな問題が起きているのかがよくわかったからだ。

「どうするんですか? なかなか闇が深そうな問題ですが」

「そりゃあ、詐欺の大元を潰すに決まってるだろ。ああいうところは詐欺の記録なんかを記録しているだろうし」

「待てよ!」

 俺とルーナがまた二人で話し合っているが、それを子供が大きな声で静止する。まあ、いきなり依頼だか詐欺だかなんか言われたらそれは当然困惑するだろうな。

「いきなり何言ってんだ! 意味わかんねえこと言ってんじゃねえよ!」

「なら学のないお前のために懇切丁寧に教えてやる」

 こいつは元々貧乏で、親はとてもいい人なんだろう。スリとかだって詐欺の連中が吹っ掛けたに違いない。俺もあんまり世間の常識は知らんが特に金に関することとか健康に関することはある守銭奴のおかげで把握はしている。そいつはよくそういう連中の世話になっているらしいし。

「そもそも、薬代なんて年間で金貨一枚あれば高級なもんが買えるな」

「でも、俺の母さんの病気は重いもんだって……!」

「だとしたら病院じゃなくて王都とかの研究員に行った方がいい。まあ、普通なら領主に直談判して確立された治療法と返済方法を相談するのが普通だ」

「死神君が常識を語れている……!?」

 そこでルーナがいらんことを言ってきたが全く拾うべき内容でもないためここでは無視するが、重すぎる病気なんて民間の病院じゃまず扱わないんだよ。そんな腕のいい医者や薬屋がいるんなら有名になってないとおかしいし。

「なら、高すぎる治療費はなんのためにあると思う?」

「金儲けのため?」

「まあ、それもあながち間違いではないが、一番は払えない状況に持って行かせるためだ」

「払えない状況?」

 こういう詐欺師どもは一回で大量の金を取ろうなんて考えは存在しない。詐欺に引っかかるくらいの連中くらいからならカモにするために徐々に追い込んでいくの常識だ。

「そうして、長い間働き口にしたり、金を搾り取るために利用するのさ」

「なんだよ、そんなわけないだろ!」

「だが、事実はお前らは法外な請求をされていて使い潰されている。お前らは搾取される側でしかねえんだよ」

 そう断言してやると、何も言えなくなったのか子供は黙りこけてしまった。ガキだな〜、なんて思いつつもとりあえず落ち着くまで待っていると、子供がぐずり始めてしまった。うるさいと思っていると、近くにいたルーナが俺の肩を抑えてきた。

「なんだよ」

「こんなに小さい子供を泣かすなんて何やってんですか!?」

「俺は現実を軽く教えてやっただけだ」

 最近は俺に対して本当に物怖じしなくなってきたルーナだが、お調子者っぽく振る舞わなくてもある程度には俺と話すことも叱ることもできる。

「それにこういうのは早めに抑えておかないと第二第三の被害者が生まれるだけだ」

「だからって、この子の家族たちが愚か者みたいな言い方もしなくてもいいじゃないですか!」

「愚か者だよ。この王国に住みながら王国のことなんてまるでわかっていない。貧乏に甘えて知ることをしなかったのこいつらの責任だ」

 別に詐欺にあったのがこの子供の家族のせいだけっていうわけではないだろうし、治安が比較的にいいこの街でもそういうのが横行してしまっているし、防げていないマクロンも悪いっっちゃ悪いとも言える。だが、それでもこいつらは知ることをしなかった。そんな奴らでは今、詐欺に引っ掛からなくてもいずれ近しい被害には遭っていただろう。

「だから、俺はこれ以上の被害者を生み出さないために依頼を受けてやろうっていうんだ」

「それは分かりましたが、それでも本人たちの前で名誉を貶す理由にはなっていません」

「考え方の違いだ。スリに走るこいつにそんな名誉なんてあってないようなもんだよ」

「それでも、この子は母のために……!」

 なら、いいというのか? 家族が危篤なら罪を犯すのは正しいのか? 俺がそうしてこの世で殺しを行ってもいいと言えるのか?

「家族は犯罪のための道具じゃないんだぞ!」

「道具って……」

「家族が不幸だからとか、家族がこんなに苦しい目にあっているから仕方ないんですは通用しないんだよ」

 こいつが家族の病気が治りました。これからは盗んできた皆さんのために頑張って働きますなんて言ったとするが、盗まれた奴は簡単に許さない。店の売り物を盗もうが通行人から金をスろうがやられたやつには残り続ける。そういう奴は何をしでかすかは分からない。そういった意味では俺も同じな部分がある。

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