五章 3

「選ぶって言ってもこの中から探すのは困難だな。もうなんだっていいんじゃ「はっ?」……何でもない」

 適当に鉛なんかを持ちながら呟いて見たが、見事に聴かれた上になんかすごくキレそうになっていた。まあ、女性にあげるようなものではないだろうけど、鉛でもこだわられているのか結構なお値段はするんだけどな。

「石言葉で選んでみてはいかがでしょうか?」

「石言葉ですか?」

 二人でうんうんと唸っていると流石に見かねたのか店員が俺たちに助言を送ってくれた。石言葉か。それもいいかもしれないな。なるべく目的に合うものを探さないとな。

「そうですね。たとえばアレキサンドライトは高貴とか情熱なんて石言葉で、エメラルドは幸福、誠実が当てはまります」

「ほえ〜、奥が深いですね」

「すみません、あの宝石の石言葉を教えてください」

 そうして俺はショーケースに立派に飾られている一個のネックレスを指差した。そこについている宝石は綺麗な青色をしていて大ぶりであった。

「あれはアウイナイトですね。この国では採れない非常に珍しい宝石で当店でもあれしか取り扱いがないんです。えっと、石言葉でしたよね。アウイナイトの石言葉は過去との決別、慰め、励ましです」

「すごいですね。まるでルミエル様の瞳くらい美しい青色の宝石ですね」

「特にあの商品は魔術加工もされていて、本来は宝石にしては傷つきやすいアウイナイトを保護するために装飾に紛れて魔法陣が彫られているんです」

「あいつには似合うだろうな」

「その代わり、金貨90枚もしてしまうんですよね」

「金貨90枚!?」

 店員が告げた言葉にルーナが平民の自分にとって高すぎる値段であると知って流石に卒倒しそうになっていた。俺としてはまあ珍しいって言ってるし、多分ミスリルが魔術装飾に使われているネックレスなんてぶっちゃけこれでも安いまであるぞ。

「だいぶ安いですね。もっと高いとも思いましたが」

「安くなんて「ええ、本来は金貨120枚もするんです」き、金貨120枚……」

 俺としてはやっぱりだなと思うことだが、ルーナはさらに未知の金額を出されて卒倒というよりむしろぶっ倒れてしまいそうになっている。正直、無理もないとは思っている。貴族屋敷の従者としても年の報酬はだいたい金貨3〜4枚が妥当なところだ。そんな俺らが金貨120枚、安くなって金貨90枚の商品なんて絶対手が届かない。

「お前らの出せる金は?」

「え、ええ……金貨60枚くらいです」

「……!? むしろなんでそこまで出せんだよ」

「従者一同って言ったんですけど、役職の一番上の皆さんが色々と用意をしてくれて」

 なるほど、みんなで金貨60枚くらい出せたけど執事長や料理長とかの給料の高い人たちの負担が多いわけか。そもそもその計画に加担していない俺がいうのもあれだが、綱渡りすぎるんだよな。

「すみません、一旦保留でお願いできますか?」

「大丈夫ですよ。またの来店お待ちしています」

 丁寧に頭を下げる店員に見送られて俺たちは宝石店から出て行った。その後も色々な宝石店や小物商に訪れて見たのだが、これと言ったものは見つけることはできなかった。

「やっぱりあのアウイナイトが一番なんだがな」

「予算から余裕で超えちゃうんですよね〜」

 歩きながら考える俺とルーナ。しかし、暗殺者時代の貯金が使えるのであれば別であるが、あれはミンフェル領とは別の貴族領地にある屋敷に全部隠してあるからな。今はここを離れるわけにはいかないし、そうなるともう妥協するしかないんだがな。

「きゃっ!」

「大丈夫か?」

 ルーナが向かい側から走ってきた子供にぶつかって、よろけてしまった。転んで怪我をさせるわけにはいかない。そう思った俺はすぐさまルーナの体を抱き抱えた。

「え? え?」

「転ばないようにしたんだが……どうした?」

「……」

 ルーナの顔がだんだんと赤くなっていた。少し様子がおかしいと感じ始めた俺は確認を取って見たんだが、反応が一切なかったので不審に思ったのだが、様子を見ていた露天の店主が声をかけてくれた。

「少年、降ろしてやりなさい。こんな人のいるところで抱き上げられるなんて恥ずかしいに決まっているでしょう」

「なるほど、大丈夫だったか?」

「大丈夫です……」

 声を極限まで絞って俺から離れたルーナはちょびちょびと歩いて行った。流石に置いていかれるわけにもいかないので追いかけに行ったが、周りからの視線の生温かさを少し不思議に感じた。

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