21


 土曜日ともあって、商店街の賑わいも平日より二割増しだ。


 この日の商店街の人の流れ方は、いつもと違っていた。


 一本道に漂ういい匂いを皆が辿っていく。


「こ、今晩のおかずにどうですか〜?」


 精肉店の店頭で呼び込みをする獅子尾。


 前に俺の接客をしていた頃とは見違えるほど、しっかり声を張れていた。


 今日は休日。


 ……この日が勝負だ。


「来栖くん、メンチカツ四つ」


「よし、任せろ!」



 ——ジュワ〜ッ!


 軽やかな音が調理場に響く。


 注文を受けてから揚げる、出来立てのメンチカツ。


 黄金色の衣が光る。


「……よし。じゃあ、これを袋に入れてくれるかな?」


「「は〜い」」


 獅子尾の妹たちも自ら「やりた〜い」と、手伝ってくれている。


「ねー、いおりも一個食べていい?」


「ああ、お仕事終わったらな。……でも早くしないと冷めちゃうぞ〜?」


「じゃあ、なおがお姉ちゃんのとこに持ってく!」


 ……忙しさも吹き飛ぶほどに賑やかだ。


 調理場からは、獅子尾が接客している様子も覗くことができる。


「あら。今日はお惣菜を売ってるのね?」


 八百屋のおばさんも噂を聞きつけたのか、精肉店の前に立ち止まった。


「はい。今日だけの限定販売なんですけど、良かったらどうですか?」


 獅子尾の接客文句も板についてきている。


「ならせっかくだし……、買って行こうかしら?」


「あ、ありがとうございます!」


 獅子尾が注文を受け、俺が調理。


 出来上がったら妹たちが袋に詰め、会計の獅子尾の元に持って行く。


「お姉ちゃん、はい!」


「なお、ありがとう」


 一連の作業も回数をこなすごとに慣れていった。


 しかしそれに反して、だんだんと店前に人が集まっていく。


 商店街中に噂が広まったのか、昼間にも関わらず、少しずつ行列ができていった。


「来栖くん、トンカツ三つにメンチカツ三つ!」


「……お、おう!」


 列ができていくのに合わせて、続けざまに注文が入ってくる。


「調子いいみたいだな、来栖」


「……早乙女? ……と牛飼」


 いつの間にか二人が裏口に立っていた。


「どうして二人とも?」


「来ちゃ悪いかよ? ……てのは嘘で、ももに聞いたからさ。……応援にな?」


 早乙女のその言葉だけで疲れが吹き飛んだような気がした。


「ももから聞いたけど……。意外とやるね、来栖くん」


 牛飼が俺の肩を小突く。


「ありがとう。早乙女、牛飼」


 二人にも協力してもらったんだ。


 俄然やる気が出てきた。


「私もせっかくだから買ってこうかな?」


「じゃ、俺も。むぎの奢りでな」


 調子に乗った早乙女は牛飼にゲンコツを食らっていた。


「……さ、もうひと頑張りするか!」


 そう気合を入れ直したのも束の間。


 存外にも列はすぐ捌ききることができた。


「……ふぅ」


 ようやく一息つけるタイミング。


 獅子尾も休憩がてら、途中の売り上げを確認していた。


 しかし。


「うーん……。まだ足りてないかな」


「マジかよ……? こんなに忙しかったのに?」


 黒字の売り上げ額には、まだ三、四割ほど届いていなかった。

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