20
「……来栖くん」
「……起きてきたのか、獅子尾。体調は大丈夫か?」
獅子尾の顔色はだいぶ良くなったように見えた。
「うん、もうすっかり。……何作ってるの?」
それで獅子尾を休ませていた間に俺がしてた事。
「ああこれ? ごめんなキッチン勝手に借りちゃって。なんか食べられるものがあったほう
がいいかなと思って。……ああ、食材は俺の家にあったやつだから!」
少しでも気を使わせまいと、自然と早口になってしまった。
「……気にしてないよ。ありがとう、何から何まで」
「もうすぐでできるから、椅子に座っててくれ」
さて、そろそろ仕上げに入るか。
「私も食べたーい」
「食べたーい」
妹たちが俺の元に駆け寄ってくる。
二人ももうだいぶ懐いてくれていた。
「おう。でもまずはお姉ちゃんからな」
「「はーい」」
三人が囲むテーブルに温かいポトフを運んだ。
立ちこめる湯気からもいい匂いがする。
「さ、どうぞ」
「い、いただきます」
獅子尾がそっとスープを口に入れる。
「……どうだ?」
獅子尾の口からは言葉よりも先に、「ほっ……」と息が出た。
「やっぱりおいしいね。来栖くんのごはん」
「「おいし〜!」」
妹たちも口を揃えて言う。
「……だろ?」
ここまで素直に褒めてもらえると恥ずかしい。
獅子尾は続けてホクホクのジャガイモを口に運ぶ。
「……うんおいしい」
温かな笑顔。
……うん、やっぱりな。
「……どうしたの?」
獅子尾に言われて、ようやく自分がニヤけていたことに気づく。
「……いやさ? 人に料理を振る舞って、笑顔になってもらって。幸せだよな……」
「……? うん。納得のいく出来だった?」
「ああいや、それはそうだけど……」
俺は立ち上がり、意を決して続けた。
「実は、俺にアイデアがあって」
「アイデア?」
「……ここ店のお肉を使って、俺が料理を作る。それを、お惣菜として売るんだ」
獅子尾は少し考えた素振りをして聞いてきた。
「来栖くんは、売れると思うの?」
その問いには、正直苦笑いするしかなかった。
「……ごめん。正直、うまくいかないかもしれない。……——でも」
おいしそうにポトフを食べる妹たちに視線を向ける。
……温かな家庭。
いつの間にか失念していた。
俺にも、ずっとあったはずだったのに。
きっと当たり前すぎて気づかなかったんだ。
それを獅子尾に、みんなに届ける。
「これが俺にできる、……いや、俺“だから”できること。そう思うんだ」
「優しいね、来栖くんは」
「……そうだといいけど」
自信はない。
けれど。
獅子尾のために。
そして俺のために。
ただこの気持ちを誰かに伝えたい。
「……その優しさに、甘えちゃってもいいかな?」
今回は獅子尾の方から手を差し伸べてくれた。
「ああ、……もちろん!」
獅子尾の手のひらを、強い思いとともに包み込んだ。
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