19
横になっている獅子尾の横顔。
落ち着いた呼吸。
大事には至らず、どうやら貧血だったようだ。
……俺が手伝う、とは言ったものの。
それ以前の、獅子尾が一人で店を切り盛りしていた頃の疲労は、簡単に抜けはしていなか
った。
よく考えればわかることだ。
俺が手伝っていても、依然として獅子尾への仕事の負担は小さいものではなかった。
「……はぁ。何やってんだ俺。……浮かれてばっかで、ダサすぎんだろ」
拳を軽く握り、自分の頭部をポカポカと殴った。
——……ブゥーン……。
ポケットのスマホが揺れた。
取り出した画面には「母」と映っている。
獅子尾の部屋の扉をそっと閉じ、廊下で電話に出た。
—「あんたがメッセージでって言うから送ったのに、全然読まないじゃないの!」
開口一番がバカでかい声でビクッとした。
「……ごめんて。こっちも忙しいからさ」
—「もう。何かあったのかって、心配してたんだから」
声色からも明らかに安堵の様子が伺えた。
「……ありがとう、心配してくれて」
—「当たり前でしょ? 子どもが遠いとこで一人暮らししてるんだから」
今の俺にはその言葉が染み入って感じられる。
「俺は大丈夫だよ」
—「……そう。で、元気にしてるの?」
……今大丈夫って言ったばかりだよな?
「別に大丈夫だって」
—「そうは言ってもね。こっちにいたときも、ちっーとも自分のことなんて話してくれなか
ったんだから。……ちょっとは何か聞かせなさい?」
あのときの俺、やっぱり心配かけてたんだな。
「……元気だって」
—「本当?」
「ホントに大丈夫。ありがとう」
—「……そう。ま、そのために自炊だけは完璧に教えといたつもりだけど」
……。
「……そうか」
—「え? なんて?」
「それもありがとう、って」
—「ええ……? 何よ改まって」
……そうか。俺にできること、……あったんだ。
「なんでもない。ありがとう母さん。じゃ——」
—「ちょ、あんた——」
少し強引に電話を切ってしまった。
でも、こうしてはいられない。
……獅子尾のために、今、俺にできることをやるんだ。
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