18


 エプロンをつけて身支度を済ませる。


「お待たせ……、あれ?」


 店のバックヤードは静けさに包まれていた。


 裏口は確かに開いていたものの、店の電気がまだついていなかった。


 スイッチをバチンと押すと、一、二秒遅れて蛍光灯の灯りが付く。


「獅子尾ー?」


 呼びかける声は、立ち並ぶ物々しい機械に音を吸われていく。


 奥に進むと、足元には白い肌の腕が見えた。


「——おい!」

 その腕は倒れている獅子尾のものだった。


「——獅子尾!」


 すぐに駆け寄るも、焦りでいっぱいになる。


 声をかけ、何度も「獅子尾!」と呼びかけた。


 身体を揺らし続けると、獅子尾はゆっくりと目を開いた。


「……獅子尾。大丈夫か!?」


「……あれ、来栖くん。……ああ、ごめん全然仕込み進んでないや」


 まるでただ寝落ちしていただけだったかのような反応を見せた。


「すぐ、やる……から、っと——」


 立ちあがろうとした獅子尾はその場によろめいた。


 身体を支える俺に、全体重がかかる。


「……! そんな、店のこと気にしてる場合かよ。いいから休めって」


 獅子尾はなんとか自力で立とうとするも、俺の支えなしでは立っていられなかった。


「……来栖くんだけじゃ、店は開けないでしょ?」


「何言ってんだ、今日は臨時休業でいいだろ」


「それは……ダメだよ。せっかく来栖くんが手伝ってくれるんだから……」


 それでも獅子尾は店の準備を始めようとする。


「言っただろ、獅子尾。このままじゃまずいって。獅子尾のお母さんと同じように……」


 その言葉で、ようやく獅子尾はハッとした。


 次第に獅子尾の目から涙が溢れ出す。


「ごめん……。せっかく、手伝ってくれてるのに……」


 獅子尾は少しずつ涙声になっていった。


「……いいってほら」


 俺は獅子尾をおぶって、寝室に運んだ。

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