15


「「いただきま〜す!」」


 獅子尾の妹たちはフーフーと冷ましながら、オムライスを口に運ぶ。


 まだ熱かったのか、ハフハフと唇を踊らせている。


「どう?」


 内心ドキドキしながら聞いた。


「「う〜ん。おいし〜い!」」


 妹たちは口を揃え、幸せそうな顔をしていた。


 そんな様子を見ていた獅子尾もまた、頬が緩んでいるように見えた。


「獅子尾も。食べてみてよ」


 促すと、こくりと頷いてから獅子尾が続く。


「……おいしい」


 ポツリとだったが、確かにそう聞こえた。


 そうしてすっかり自信に満ちた自作のオムライスを俺も口にした。


「これは……」


 自分でも納得のいく出来だった。


 しかし、これは単に自分の腕というより、使われている精肉店の肉がおいしすぎた。


 どうにも屈服させられた気分だった。


「意外だね。私料理のセンスないから、羨ましい」


 謙遜するでもなく「それほどでも」と答えた。


「いつも妹たちには、スーパーのお惣菜とか、冷凍のとかばっかりで」


「お姉ちゃんのご飯もおいしいよ?」


 妹たちは口を揃えて答えた。


「そうだよなー? 大事なのは愛情だって、獅子尾」


「愛情だって……、来栖くんの料理の方が。私はずっとお店のことばっかりで、妹たちのこと全然気にかけれてない。さっきも、ナオがいなくなってたのにも気づかなくて……」


 俺のメシに愛情?


 何より、俺は料理をすること自体が好きなだけで……。


 獅子尾と違って親とも仲良くないし……。


 ……俺が飛び出してきた地元。


 一人暮らしが決まってから、母さんは俺に料理を教えてくれた。


 あのとき、久しぶりに母さんとちゃんと話して。


 ……。


「……俺がこうやって世話を焼こうとするのは、もしかしたら、ただの罪滅ぼしのつもりなのかもしれないな」


「え?」


 獅子尾は一瞬驚きを見せる。


「俺の実家、農家なんだけどな。俺のじいちゃんも……過労で死んで」


「……そうだったんだ」


「父さんも母さんも畑仕事で忙しくなって。最初は俺も手伝ってたんだけど……。まだ子どもだった。全然遊べなくなったのが嫌になって。だんだん手伝いもしなくなって……。それから少しずつ親との会話も減って。なんか居心地が悪くなっちゃったんだよな」


 親への反抗心から、漠然とした“何か”を求めてきた。


 ……そう思っていたけれど。


「でも、俺、家族のこと、ちゃんと好きだったんだな。……こうやって食卓を囲んで、誰かにおいしいって言ってもらえる」


 ……俺、幸せだったんだ。


「……だから、俺は獅子尾の話を聞いて、見て見ぬフリができなかったんだ」


 改めて獅子尾の目を見て話す。


「俺は、獅子尾にも幸せでいてほしいんだ」


 言うなり獅子尾はクスッと笑った。


「……なんだか恥ずかしいこと言うね?」


 たしかに変な言い方をした気がする。


 しかし、獅子尾のその顔は少し紅潮しているように見えた。


 ……今の俺なら、できる気がした。


 獅子尾に手を差し伸べる。


「だから、やっぱり俺にも手伝わせてほしい」


 少し戸惑いながらも、獅子尾は俺の手を取ってくれた。


「……わかった。とりあえず、一日だけ、ね」


「……ありがとう。獅子尾」


「それは……こっちのセリフ」


 こうしてなんとか俺の明日のバイト先が決まった。

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