10


 授業一コマが終わり、皆次の授業の準備に入っている。


 ——俺がやる、と意気込んだはいいものの……。


 今の状況で獅子尾に話しかけられるほどの俺ではなかった。


 獅子尾が座る席が目に映るだけで、不規則に胸が鳴る。


 ……代わり、と言ってはなんだが。


 獅子尾に話しかけるよりはるかにハードルが低い、解決のヒントが得られそうな人物。


 今こそ、意を決する時だ。


「あの……、牛飼?」


 早乙女の話で聞いていた獅子尾のもう一人の幼馴染。


 仲良さそーに話してした女子たちの輪を乱す俺に、視線が集まる。


 みな無言だが、揃って言いたげな顔はしている。


「……ああ。……来栖くん、だっけ?」


 かろうじて名前は覚えてもらえていたか、と少し安堵する。


「ちょっといいかな? ……獅子尾のこと、聞きたくて」


「……昨日怒らせてた、アレ?」


 ……う。


「うーん。……まぁ」


 牛飼はサラサラの長い髪を軽く撫でた。


「私に聞きにきたってことは……」


「ああ。早乙女から、ちょろっと」


「そう」


 牛飼がスッと立ち上がると、ふわりと花のような芳しい香りが漂う。


「じゃあ、次の休み時間に」


「……わかった。ありがとう」


「で——」


「……は、はい」


 牛飼が話を続ける。


「——みんなさ、こないだ買ったデパコスどーだった?」


 またわいわい盛り上がる女子たち。


 俺との会話はなかったかのように、もう元の調子で牛飼は女子たちの中心にいた。


 俺に話を続けると勘違いしたのが、そこはかとなく恥ずかしかった。


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