8


 放課後、早乙女の後ろを着いていくように獅子尾の元へと向かった。


「よ、もも」


 早乙女から話を始める。


「……遥輝。なにか?」


 やはり幼馴染か、昨日俺と話したときより、受け答えにだいぶ柔らかい印象を受ける。


「元気?」


 まずはご機嫌から伺うようだ。


「元気……だけど? 用があるわけじゃないの?」


「聞きたいことがあってさ。といっても俺じゃなくて……こちらの来栖からなんだけど」


「……ど、ども? ……昨日ぶり」


 不自然な流れで俺の番になる。


 早乙女は「ほら、行け」と、耳打ちする。


 別にデートのお誘いをするでもないのに。


「……えっと、来栖、くん、でしたっけ。何の用ですか?」


「……昨日のこと、改めて聞きたくて」


 話し始めた瞬間、獅子尾の表情が明らかに暗くなったのがわかる。


「別に、気にしないで」


 さっきより声色が暗くなったのがわかる。


 しかし予想できた返答だ。


「だけどさ、店にあんなに列もできてたし」


「——店? ああ、ももの精肉店のこと?」


 早乙女がなんとか話に入ってくる。


「遥輝はいいから。私の都合の話」


 獅子尾は変わらず、他人には干渉させないつもりだった。


「獅子尾。やっぱり俺でも助けになれたらと思って」


 また少し機嫌が悪くなる。


「何でそんなにおせっかいを?」


 昨日のように言葉が鋭くなっていく。


 早乙女が割って入る。


「まーまー、もも。手伝うって言ってくれてるならならいいじゃん」


「私の問題だから……! いいの、気にしなくて」


 獅子尾は幼馴染にも語気を強めた。


 こんな獅子尾を見たことがないのか、早乙女も驚いているようだった。


 ……だとしても、俺にも譲れないものがある。


 田舎から出てきて、何かを成そうと思っても、なるようにはならなくて。


 それでも誰かのためになればと、俺にやれることはやってきた。


 故に、困っている人を見過ごせと言われるのは、俺が困る。


 ——だから、その言葉を発した。


「俺は獅子尾のことを思ってだな——」


 俺の善意を込めて言った。


 しかし獅子尾は、差し伸べた手をはたき落とすようにハッキリと言った。


「——いいから! 余計なお世話だから!」


 ……!


 途端に教室が不穏な空気に包まれる。


「……もも?」


 早乙女の言葉に獅子尾はハッとする。


「……。……もう、最悪」


 獅子尾はカバンを背負って足早に教室を後にした。


 そんな獅子尾を俺は目で追うしかできず、ただ呆然としていた。


 早乙女の手が俺の肩に置かれる。


「これは本当のほんとに嫌われちゃったかもな」




 トボトボとした足取りで帰路に着く。


 どうしても気まずくて、誰からも話かけられないようササっと商店街を通り抜けた。


 鬼から逃げ切ったかのように、玄関の扉をバタンと閉じる。


 靴も脱がず、その場にうなだれた。

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