3


 何より、俺の自己紹介の時に机に突っ伏して寝てた——獅子尾、とかいうヤツ。


 あいつだけはいまだに許せない。


 今度は煮物のにんじんに箸を突き刺す。


「——あ、いたいた。来栖ー?」


 薄暗い階段の下の階から顔を覗かせたのは、クラス長の早乙女遥輝だった。


 明るい性格でクラスの中心人物。


 いかにもクラス長、といった人間だ。


 しかし、なぜここに?


 入学してから毎日ここに通い詰め、ただの一人もここに来た者はいなかったはずだが。


「いやー、こんなとこにいたんだな。ずっと探してたんだけど、この学校やけに広くて」


 ……俺を、探していた?


 その言葉だけが頭の中をぐるぐると巡る。


「ええと、何の用?」


 ——パンッ!


 突然早乙女が強く手のひらを合わせた。


「頼む! 今日の掃除当番変わってくんね? 放課後さ、クラス長で集まって生徒会の会議に出ないとなんだよ……」 


 何用か、と思えば、それは雑用だった。


「……ああ、なるほどね。それなら喜んで変わるよ」


「まじ? サンキューな! 今度なんかお礼するよ! じゃ!」


 早乙女は、つむじ風のように一瞬で去っていった。


 最近はこんな調子だ。


 ことあるごとに、いろんな人から雑用を押しつけられる。


 いわば都合のいいポジションになってしまったわけだ。


 ……しかし、今はそれでいいとも思っている。


 別に今の現状に満足しているわけでもない。


 ただ俺は、「偽善者たれ」と、やれることはなんでもやるようにしているに過ぎない。


 ……それでいい、と自分に言い聞かせている。

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