北高文芸愛好会の雑談

にゃべ♪

第1話 雪桃娘

 瀬戸内海に面した風光明媚な都市、舞鷹市。県内で2番目に大きく、全国的な産業が2つあったり、全国的に有名な企業もあったり、街の規模単位での住みたい街日本一だったり、シネコンが2つあったりと、割と住みやすい街だったりする。

 そんな街にある高校の1校、舞鷹北高校。この学校には文芸愛好会があった。愛好会の活動は空き教室で行われており、放課後になると集まってメンバーがとりとめのない雑談をしている。



 2月の中旬、会員の星守ツツジと越智ユキコが適当な席に座って雑談を始めていた。会長の佐々木ユウトは不在のようだ。

 ツツジはショートカットの文学少女でユキコはパッツンメガネ。2人は友達で、学校ではいつも一緒にいて普段からよく喋っている。2人共創作が趣味で、高校に入学してすぐに意気投合したと言う経緯があった。


 一通りの雑談を終えた後、何かを思い出したみたいにツツジが話を切り出した。


「ゆっこ、雪桃ゆきももって知ってる?」

「知らん。何それ……怖……」

「いや、怖くねーわ。雪苺ゆきいちの桃バージョンだわ」

「え? 美味しそ」


 甘いものが好きなユキコは、ツツジの話に秒で食いつく。鼻息の荒い彼女に、ツツジはドヤ顔を見せた。


「実際うめーぞ」

「えー、売ってたんだ。私の分は?」

「ねーわ! てか最後の1個だったし」

「ケチ」


 自分の分がないと知ってユキコは頬を膨らます。とは言え、そもそも学校にお菓子の持ち込みは禁止だ。なのでこれは最初から冗談で、2人にはお約束のやり取りだった。

 大げさに不機嫌な演技をする彼女に、ツツジはそっけない態度を見せる。


「知るか。自分で見つけて買えや」

「でも見た事ないぜ」

「イオンに売ってた」

「イオンかー遠いなー。ローソンにないかなー」


 舞鷹市はローソンが多い。そもそも、市に最初に進出してきたコンビニがローソンなのだ。今ではファミマもセブンイレブンもあるものの、一番近くのコンビニがローソンと言う舞鷹民も少なくない。

 そして、ユキコはそれに該当していたためにローソンが最寄りのコンビニだった。それ故にローソン愛も深い。彼女がコンビニと言うと、それは100%ローソンの事なのだ。


 この都合の良い要求に、ツツジは速攻でツッコミを入れる。


「ローソンで売ってたら330円だから手が出ん」

「そうそう、気がついたら高くなってんのビビる」

「コンビニスイーツとは言え、300円越えたらちょっとねえ」

「みんなこの物価高が悪いんや」


 コンビニはメーカー希望小売価格で売るので基本的に高い。スーパーで300円以下で売られる事もある雪苺娘は、2025年当時で330円で売られているのだ。高校生のお小遣いで300円以上は大金。簡単に出せる金額ではない。

 と言う流れで、2人は同じタイミングでため息を吐き出すのだった。


 金額の話で軽く盛り上がったところで、ユキコはツツジの顔を見る。


「てかイオンなら安かったん?」

「最後の1個やったからね。賞味期限が買った当日までで割引やったんよ」

「て事は売れ残り? 本当に美味しいん?」

「桃が嫌いでなければ。雪苺娘の苺が桃になってるだけやし」


 ツツジは端的に雪桃娘の味の説明をする。ユキコも雪苺娘の味は知っているので、この説明で通じたようだ。彼女は雪苺娘の中身を桃にしたイメージを思い浮かべ、その未知なる味に思いを馳せる。


「うーん、これは食べてみたい」

「買えばぁ~?」

「売ってねーんだよっ! ああ、地元スーパーにも入荷してくれんかなあ……」


 ツツジの挑発にツッコミで返したユキコは、分かりやすく落胆する。雪苺娘なら地元のスーパーでも売っていたりするので、その願望を口にして遠い目になった。

 何となく雰囲気が暗くなってしまったのと話に区切りがついたので、ツツジは話題を変える。


「でもさ、桃が行けるなら他の果物も行けそうだよね」

「確かに」

「いちご大福のバリエーションでも色々あるじゃん。アレで行けるやつ、全部いけんじゃね?」

「雪マスカット娘とか? 美味しそう!」


 ツツジのアイディアにユキコの目が輝く。彼女が好きなのがマスカット大福だったのもあって、まだどこにも存在していない雪マスカット娘を想像して顔がニヤけた。

 ユキコがニコニコ笑顔になったところで、ツツジはネットに何か面白い情報がないかとスマホで雪苺娘関係の情報を検索。ここで面白そうな情報を見つける。


「ちょっとググったら雪苺娘のチーズ味とかマロンてのもあったっぽい」

「チーズって美味しそうじゃん!」

「しかもチーズはコンビニ限定だって!」

「嘘やん……見た事ないで……」


 未知の味、雪苺娘チーズ味。ユキコはチーズケーキのような味を想像して目を輝かせた後、コンビニ専売だと知って分かりやすく落胆する。

 がっかりする彼女を見て、ツツジは元気付けようと明るく声をかけた。


「じゃあ、近場のコンビニぐるっと見て回らんとやね」

「でも330円はなあ……」

「それなー」


 結局値段の話に戻ってしまい、2人はほぼ同人に溜息を零す。そのシンクロ具合に2人は軽く笑い合った。


 その後もしばらく雑談を楽しんで、今日の活動は終了。文芸愛好会はそう言う日も多いのだ。さて、明日は何の話題で盛り上がるのかな。

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北高文芸愛好会の雑談 にゃべ♪ @nyabech2016

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