第6話
九月某日。
東京都・〈協会〉本部。
円卓を囲み、各部門のトップによる定例会議が行われていた。
「―続いての議題は、意識を回復した式見空也の処遇についてです。こちらにおきましては前回すでに仮決定されていますので、改めてその確認を行うという形をとらせていただきます」
司会を務める部長―目の下にクマを作り、今にも倒れそうな初老の男―はそう言うと背面のスクリーンを切り替えた。
「現場検証を行った伊ノ浦霧木によると、〈
と、その時だった。結論を遮るように、会議室のドアが蹴り破られたのは。
「あーいや、それよりいい案があるんだけど、聞いてくれない?」
状況にそぐわない緊張感のない声にざわつく室内。
「あ、あなたは」
支部長は充血しきった眼を見開き、呻くように言う。
「
その人物は、侍を思わせる浅葱色の和服を纏い、腰に刀を二本帯刀している―女性。
「ご名答」
言いつつ、長い銀髪を揺らしながら、彼女はゆったりと支部長の元へ歩を進める。止めに入ることが出来る者は一人もいない。
「案は極めて単純。長夜町の支部、人が集まらなくて困ってるらしいじゃん?そこ、美錫が引き受けるよ。黒瀬澪と式見空也も
にっこりと微笑んで言う磨屋。そこには有無を言わせない圧があった。
「で、ですがやはり正体の解明を」
「そんなの一緒に過ごせばその内わかるよ。美錫、人を見る目には自信があるんだ。いいよね?」
「しかしあなたは別の任務が」
「いいよね?」
「は、はい・・・・」
支部長は白目をむいて倒れた。そんな彼を心配することもなく、磨屋美錫は意気揚々と会議室を後にしたのだった。
「―と、言うわけで今日から君は磨屋美錫がリーダーを務める、長夜支部の一員です!」
「・・・・は?」
退院前夜。俺の元に現れた侍により、束の間の平穏は跡形もなく消し飛ばされた。
「まあ、困惑するのも分かるよ。いきなりだもんね。でもこれはもう決定事項なの。いまさら変えることはできない。猶予もない。だから退路を、逃げ道を絶ってあげる。選択肢を奪ってあげる。これを見て」
そう言って磨屋が差し出したのは、一枚の封筒だった。中身は―
「裁判所からの呼び出し⁉」
「ご名答」
「いやいやいやあり得ない。俺は
「家賃」
彼女が言ったその一言で、悟った。
そうだ。忘れていた。完全に忘れていた。俺は予備校の学費を叔父に負担してもらう代わりに、生活費は自分で工面していた。家賃は口座から引き落とされる。一、二か月分の貯蓄はあれど半年となるとさすがに厳しい。
「これで空也は生活の基盤を失った。でも安心して。美錫のところに来れば衣食住は保証する。それに、これを得ることもできる」
磨屋が掲げたのは、手のひらサイズの小さなカード。
俺はそれを、知っていた。だってそれは。
「探索者資格証・・・・!」
「そうだよ。どう?来るしかなくなったでしょ」
「いや、断る」
「・・・・え?」
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