Level51C

もううんざりだ。まだ牢獄から出られていなかった。赤いベランダも、狂った雪道も、死にかける子供部屋も…もう全てクソッタレだ。

やっと来たここも、牢獄の一部屋に過ぎない。比類ないほどの安息の場所だってのに心が休まらない。おそらく俺の大切な人が居ないからだろう。

とりあえず1225号室を予約した。理由は…恐らく付き合い始めの日だからだろう。

それから風呂場の使い捨ての剃刀や備え付けのシャンプーで血濡れた体を洗った。風呂場から出てバスローブ一枚の時に待っていましたと言わんばかりのタイミングで呼び鈴が鳴った。

「…はい、たけしです。ルームサービスは頼んでませんけ…ど……」

一瞬思考が止まった。

部屋に来たのはゆうだ。ただその夢は思考が働くとすぐに崩れた。「どうせあのネオン街と同じだろう」そんな考えが頭をよぎる。しかし愛おしい彼女と居られると言う楽観視が脳を埋めつくした。

「ゆう!やっと会えたよ!」

「たけるこそ!今までどこにいたの?!」

俺たちは青年にも関わらず幼い子供のようにはしゃぎ抱きしめ合った。彼女の幾度となく感じたこの暖かみを感じられて、涙が出そうになった。

「…それでずっと危険なところばっかでさあ」

「まさかぁ!もうたけるの冗談は見抜いちゃうからね?」

そんな話をしていると2人の胃が同時に鳴った。お互い顔を赤らめて見つめ合い、廊下の自動販売機に向かった。どうやらここは無料で色々出してくれるようだ。

「お、ゆうの好物のペパロニピザあるじゃん!これにしない?」

そう言ったがゆうは既に別のボタンを押していた。その四角いゴムの束を見た途端俺は赤面してしまった。

「やっぱりお前は大胆だなあ…」

「ずっとたけるを我慢してたんだからいいでしょ?少しくらい」

俺の方こそゆうとの夜を考えたことがないと言えば嘘になる。俺はゆうのわがままにあの時のように流されてしまった。

それから俺たちは数時間に渡り夢のような時間を過ごした。

「はぁ…はぁ…たける1年経っても変わらないぐらい上手いね…」

「ゆうのほうこそ…」

ベッドで2人寝転び眠りに落ちる。いつまでも夜のこの世界は今の俺達には便利だ。もうここから出られなくたっていい。ゆうと一緒に生活できるなら、どんな場所だって構わない。ただ、この先でゆうが消えるのが怖いんだ。「ずっと一緒」と誓ったあのクリスマスの記憶が蘇るから。……鏡に映るゆうの目はまるで獣のようだった。

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