Backrooms C rooms

とある放浪者

Level45C

どれほど進んだだろうか。

今までのことを思い返すだけで気が狂いそうだ。

俺の頭にひとつの考えが過ぎる。「俺はここから出られるのだろうか。」その考えは俺の心を一瞬にして打ち砕く。

ゆうに会う為だけにクソみたいな待合室も、汚ねえ病院も、何度も死なされる地獄も、気合一つで耐えてきた。

それなのに…会えないのか?ゆうに…

もうどれだけ進んだのかさえも忘れた。

「ここはネオン街か?少しぐらいは落ち着けるだろう…」

この時の俺は、全てがどうでもよかった。生も死も、愛と憎しみもどうでもよかった。愛だの信念だの、下らないものに縋っていた俺が馬鹿馬鹿しい。

この永遠の牢獄にいることが、俺の定めだ。

万事休す。諦めるか…

ここの喧騒はやけに居心地がいい。ここは見覚えがあるからか?いや、流れに身を任せているからか?店員の女の声がする。聞き覚えのある声に、耳を研ぎ澄まそうとしてもその声は聞こえない。いや、聞き取れない。聞こえてはいるのに、それが頭に入らない。必死で頭の中の記憶を探る。いつまで探ってもその声の主は分からない。

「…誰か教えてくれ…」

それに呼応するように、近くで声がする。

「ありがとうございました!またいらしてくださいね!」

俺の疑問ががひとつの大切な記憶に結び付いた気がした。

「ゆう!」

咄嗟に最愛の人の名を口にした。

「え、その声は…たける?」

どれほど待っただろうか!この声、この顔、この優しさ…間違えるはずのない、ゆうだ!

「やっと会えたよ!寂しくさせてごめんね!」

現実に帰れた気がする!いいや、絶対にそうだ!

「ううん、大丈夫!だって私はたけるのこと、信じてたもん!」

ふとあの寝室のことが過ぎる。

「その、あの時はごめんな。あんなことして…」

「たける…なんのこと?たけるは何かしたの?」

全て嘘だった、悪い夢だったんだ!

今ゆうと居られることが、嬉しくて涙が出る。

「たける、実はここに私のお店があるの。無料にしてあげるから少し寄っていかない?」

「もちろんそうするよ!」

ゆうの店は小さな、それでも立派なバーだった。

「覚えてる?このワインは付き合って2年目の時に買った種類のものだよ?」

ゆうの出してくれたワインを一口飲んだだけで懐かしい記憶が溢れてくる。

「たける、なんで泣いてるの?」

どうやら俺は懐かしくて泣いていたようだ。

「うっ…何でもないよ…懐かしくて…」

もう永遠にここにいたい、そう思いながら何時間もワインを飲みながらゆうと思い出話をした。

「また、来てくれるよね?」

「もちろん、絶対に来るよ」

酔いが強くなってきた。

俺の目の前を何かが通り過ぎると店は元からなかったかのように消えていた。

まあ酔っているだけだろう。酔いから覚めれば大丈夫だ。

「ゆう、帰ってきたよ…zzz…」

俺は道端で眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る