第25話 学外実習:二日目

 一晩経って実習二日目。昨日、小鬼ゴブリンの巣穴をほとんど一人で壊滅させたことでカルマのレベルは1から6にまで上昇していた。それに応じて能力値も上昇したが、最低基準のレベル10に達していないため本日もエリスと共に魔物討伐である。


「今日もまた小鬼の巣穴に行くんですか…?出来ればもう少し戦い甲斐のある相


 手じゃないと意味がない気がするんですけど。」


「そんなこと言っても王都の近辺じゃ、迷宮以外に大した魔物なんて出ない。時間を


 使って強い魔物一匹を倒すよりも、数が多く住み着いている場所も判明してる小鬼

 を壊滅させたほうが楽。理解した?」


そう言われれば、分かったとしか言いようがない。あの色々と臭う洞窟のような場所に、また行かねばならないのかと憂鬱になりながらもカルマは学園を出発した。

 

 今日行く場所は学園のある王都から、15キロ以上の場所にある大洞窟である。昨日行った小鬼の巣までは4キロ程度だから、距離にして3倍以上…魔物は人間の生活圏から離れるほどに強力なものが多い傾向にあるため、手強いことが予想される。予定では、ここより難度が落ちる場所を想定していたそうだが、俺のレベルの上がり方が予想以上だったので急遽こちらに変更したらしい。


 歩くこと数時間、カルマとエリスは目的の洞窟にやってきた。道中は何事もない平穏なものだったが、口数の少ないエリスと二人の状況…その気まずさにカルマは思わぬ精神的疲労を強いられることになった。もっともエリス講師はそんなことがないようで、黙々と洞窟へ入る準備をしている。


「カルマ、これに火を頂戴。」


スッと両手に握る松明を差し出してくるので、言われた通りに火を灯す。エリスは松明を2、3度振って、消えないことを確認すると一本をカルマに渡した。


「ありがとうございます。それでは行きましょうか。」


エリスに礼を言うと、カルマは先に洞窟の中に入った。しばらくの間、つかず離れずの距離を保ちながら洞窟内を進んでいく。何度か小鬼の集団に遭遇したが既に二人の敵ではなく、蹴散らして進むうちに気づけば洞窟の半分ほどを踏破していた。とりあえずの一区切りということで、交互に昼食を摂ることにする。カルマはサンドイッチをエリスはクッキーのようなものを手早く食べ、持ち込んだ荷物に不備がないかと軽く点検し、再び洞窟を進み始めた。


 洞窟を結構進み、心に余裕も出てきたので、思い切って後ろからついてきているエリスに話しかけた。


「エリス講師、少しいいですか?」


「ん、構わない。」


「前々から気になっていたんですが、エリス講師の髪色ってあまり見ない色ですよ


 ね?理由とかあったりするんですか?」


そう言ってエリスの髪をみる。その髪色は金色に見間違えるような明るい茶色であり、この12年間では片手で数えるほどにしか見たことのないものであった。この質問にエリスは、なんてことのないような軽い口調で答える。


「それは私が貴族の子だから…かな?貴族では稀に、貴族の象徴的な金髪じゃなく


 て私みたいな茶色の髪を持つ子供が生まれる。私はそういった子の一人っていうだ


 け。これで分かった?」


「え、あぁ…はい。ありがとうございます。」


想像もしなかった理由を聞き、返事に遅れが生じる。心の中で、悪いことをしてしまったか…と反省するカルマの顔を見てエリスが首を傾げた。


「その感じ、もしかして知らなかった?てっきり聞いたことが…いや、なんでもな


 い。それより、カルマは気を付けたほうがいい。この髪色をしていて、私みたいに


 出生に関心がない人は少数派。だいたいの人が大なり小なり気にしてるから、もし


 かしたら傷つけてしまうかもしれない。覚えておいて。」


「分かりました。しっかり覚えておきますし、むやみに他人に話さないように注意し 


 ます。」


「うん。それがいい。」


途中引っかかることも言っていたが、むやみに触れないと決めた以上流しておくことにする。そうしてひと段落がついたときには、訪れるべき洞窟内のポイントもあと一つになっていた。手元の地図で探し漏らしがないことを確認しつつ、大洞窟の終着である大部屋に入ろうとしたカルマは、後ろから強く引っ張られた。


「な…」


なにをするのかと、抗議しようとしたカルマの口をエリスがふさぐ。口を押さえつけたまま、カルマの耳に顔を寄せると聞こえるかどうかの声量で話しかけてくる。


「今すぐ逃げよう、カルマ。この先にいる奴は戦っても勝つ望みが薄い強敵。気づか


 れない内にここを出て、学園のほうに応援を頼もう。」


話している間にもエリスの視線は油断なく、奥の空間に向けられている。視界に映っていないからか…それとも恐怖ゆえにか分からないが、カルマが目にしているものには未だ気づいていないエリスにそのことを告げた。


「残念がながら、それは無理そうです。最初から待ち伏せられていたみたいですか


 ら。」


その言葉にエリスが振り向き、顔を強張らせる。無理もないことだろうと思いながら、カルマもそれに目を向けた。そこには、通路を塞ぐようにしておびただしい数の小鬼たちおり、そのすべてがじっとこちらを見ていた。










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