第24話 学外実習:一日目

  雲一つない穏やかな空が浮かび、爽やかな風が野原を駆けるとある日。三の月にしては珍しく過ごしやすい、そんな日に俺は、魔物の巣と化した洞窟へとやってきていた。なんでこんな日に臭く、薄暗い洞窟に行かなければならないのか。それは今日が前々から言っていた、例の実習日だからである。

 ほかの生徒達…例えばレイたちは今回、低位の迷宮ダンジョンに向かっている。あの後、あそこにいた四人でパーティーを作ったらしいが大丈夫だろうか。特にレイノハートが何かをやらかしそうで心配なのだが…まぁレイさんがいるから最終的には何とかなるだろう。

 

 それはともかくとして、どうやら低位の迷宮への挑戦資格を持たない生徒など学園の歴史でも俺が初めてらしい。俺の扱いに頭を悩ませた講師陣は、最終的に迷宮より難度の低い学園近辺にある魔物の生息地を選び、そこに俺をレベル上げに行かせることで決定した。

 ということで、手始めに低位に分類される魔物、小鬼ゴブリン住処すみかにやってきたのである。中に入って十数メートルほど進むと目当ての敵が見えてきた。数は四、五十センチほどの小柄な体躯に少し尖った耳、極めつけは緑色の肌。何の変哲もない典型的な小鬼である。小汚い布を腰に巻いただけの、そいつらはだいたいが木の棍棒のようなものを持っているが一体だけ錆びたナイフを持っていた。

それを確認すると息を潜めて可能な限り近づいていく。


「ナイフ持ちの奴から倒していくので援護をお願いします。…では、行きますっ!」 


剣を鞘から抜くと後ろにいる同行者に声を掛けて小鬼の前に躍り出た。


「ギッ…!?グェッ!!」


驚きの声を無視し、勢いのままナイフを持つ小鬼の首を刺す。距離が近くなったため、周りの小鬼が四方から飛びかかって来る。そのうち一番近い、右の一体に狙いをつけて剣を振るう。


「イイィッ!?グッ…!」


仲間の首を跳ね飛ばしながら襲い掛かる刃を見てか、恐怖を顔に張り付けたまま二体目の首も飛んでいく。だがまだ、無防備に晒してしまった背後に二体の小鬼が残っている。急いで振り向いたその時、横合いから飛来したそれに小鬼の顔面が叩かれて弾け飛んだ。血しぶきと肉片、頭の各パーツが中に舞うその光景は少し、いやかなりグロかった…。

 

 小鬼の絶命を確認したカルマは、剣に付いた血を払い鞘に戻すと同行者…エリス講師に話しかけた。


「援護ありがとうございました。流石、教職に就かれてるだけあってお強いですね。


 珍しい得物を使っているみたいですし、後ろは任せてもいいでしょうか?」


ちらりとエリス講師の腰に巻かれた黒い鞭を見る。どう見ても扱いづらそうなそれで小鬼を一撃で…それも二体同時に打ち抜いたことを考えれば、カルマじゃ足元にも及ばない実力者であろう。これならば二人でも大丈夫そうだと安心していると、エリス講師がぽつりと呟く。


「新手が来たみたい。構えてカルマ。」

 

その言葉通り奥から歩いてくる音が聞こえる。すぐさま近くにあった窪みに身を隠し、息を潜めて待った。


「ギギィー!!ギャギャッ…!?」


案の定、こちらに気づかずに近づいてきた小鬼を切り伏せると窪みから飛び出した。奥に目を向けるとまだ四体ほど残っているのが見える。


「カルマ…あんまり勢いに乗るなとは言わない。ただ、ケガをされると困るから私


 の援護が届く範囲で戦うこと。それを守れば自由にしていい。」


いまにも飛びかかろうしていたところに釘を刺されて、たたらを踏んだ。ここで言われた通りにしない理由もないので、後ろと距離が離れないようにゆっくりと近づいていく。幸い、小鬼たちは飛び道具の類を持っていなかったので突撃してきた奴から順に剣を振るう。一対一で負けるわけもなく、エリス講師からの援護を受けずに戦闘を終えた。その後も何度か数体の小鬼と遭遇したが、危なげなく倒していき実習一日目は終了した。


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