第23話 四人一組

 時を戻して現在、カルマの所属する3組はゲルド・クレインという男性講師のもとで実技の授業を行っていた。


「なるほど…それは気の毒だったなカルマ。多分、それだけじゃ終わらないぞ。」


ペアを組み、ともに柔軟をしているシュルトに一週間前の少女のことを話せば、開口一番にそう言った。反射的に苦々しい表情を作った俺には構わずに、シュルトは話を続ける。


「特徴的に、お前に絡んできた少女はミナ・レイノハートだな。一年の魔術系クラ


 スの生徒会役員で、ここのところやたらとアスタリオンと行動しているらしい。


 竜閃の熱狂的な愛好者ファンとして有名なんだが、知らなかったか?」


「ええ初耳です。でもおかしいですね…彼女、生徒会の顔合わせの時には見なかった


 気がしますけど。」


「あーそれはな私用で休学してたらしく、出席してたのは代理なんだとさ。休学期間


 は二週間程度だから、それで会わなかったんだろう。」


「そういうことでしたか…。ありがとうございます、納得しました。」


素直に礼を言うと、立ち上がり木剣を手にする。同じようにシュルトも立ち上がっていることを確認すると、構えをとった。周りに気を遣いながら、教えられた手順をなぞるように剣を振るう。加減しながらも手は抜かず、何度も剣を交えていると気づけば授業終了間際になっていた。


「全員練習をやめ、こちらに集合!整列せよ!」


皆に指示が飛び、慌ただしく動き始める。その様子をじっと見ていたゲルド講師は全員がそろい、並んだのを確認すると話を始めた。


「さて、本日で基礎の授業も終わりになり、次回から実践的な授業を開始する。今


 からそのための説明を行うのでしっかりと聞くように!まずは今回の実習は迷宮

 

 探索を行う。人員は四人で一組、レベル毎にそれぞれ分けられているため、よく


 考えて編成することだ。では解散!」


話が終わり、皆が教室へ帰っていく中シュルトは何とも言えない表情で呟いた。


「猛烈に嫌な予感がする…」






 放課後、カルマ、シュルトに加え、ユリアとレイ、そして…ミナ・レイノハートが一堂に会していた。彼らがこうして集まっている理由は、先ほど四人一組パーティーを組んで実習を行うことが知らされたからである。

 条件としてはクラスに関係なく組んでもよく、なぜだか全員(ミナを除く)から誘われたため、やむなく座って話し合いの時間を設けたのだった。


「えっと…レイノハートさん?こんなことを聞くのもあれだけど、どうしてここ


 に?」


「どうして…ってそれはもちろん、レイさんとパーティーを組むためにです。一緒に


 授業を受けるなんて、またとない機会ですから。」


ユリアさんの質問に当然のように答えるレイノハート。そのあまりに堂々とした態度にあっけにとられていると、逆にレイノハートから質問が飛んだ。


「レンネさんの方こそ、なぜこちらに?もしかして貴方も同じように…」


レイさんを狙っているんじゃないのか?

言葉にはしていないが、目線はそう問いていた。それを聞いたユリアさんは珍しくパチパチと目を瞬くと、困ったように笑った。


「好意は持っているけど、それは友人としてのもの。そういう気持ちはみじんもない


 って断言するよ?実際、今日誘ったのはアスタリオンさんじゃなくてカルマ君だし


 ね。」


そう言ってこちらを向いてくるので、コクコクと頷いておく。その様子を見ていたレイノハートは信じられないものを見る表情でユリアさんを見ていたが、やがて首を振るうと


「まぁ…あなたが敵でないというのなら、それでよしとしておきます。」


と呟いた。ホッとしたのも束の間、今度はシュルトからの質問が投げかけられた。


「実習は四人一組…それでここには五人いるわけだが、実際ここんところはどうする


 んだ?この中から、必ず一人は他に回る必要があるぞ。」


「それはもう決まってますよ。残念ながらこの中じゃ、明らかにふさわしくない人が


 いますからね。」


そう言うと、なぜだかレイノハートに視線が集まった。それに気づいた彼女はこちらに突っかかってくる。


「はぁ…待ってください。抜けるのは貴方じゃなくて俺ですよ。」


「それは…なんでだい?もし、レイノハートさんがいるからだというなら僕が説得


 してみせるよ。それとも…」


「そうじゃないんだよ。むしろ悪いのはこっちっていうか…。実習についての説明は


 覚えているよね?」


一度区切り、一同が頷くのを確認すると話を続ける。


「今回の規則にある。パーティー内の生徒、その全員がレベルが10以上で低位の


 迷宮ダンジョン、20以上で中位迷宮に挑戦する資格を得る。これが問題で、俺のレベル


 では皆と行けないんです。」


そう言うと皆同様に驚いた顔をしたが、すぐに表情を戻すと次々に口を開いた。


「実のところ私も20レベルを越えていないんだ。だからどの道、下位のほうに行く


 ことになるさ。」


「私たちに気を遣う必要はないぞ。誘ったのはこちらだし、それくらいは合わよ


 う。」


まさかそんなことがあるとは思わないのか、どうにも的外れな気遣いをされるのが余計に刺さった。しかし、納得してもらう為には話さなければならないようなので意を決して口を開く。


「いや、そうではなくてですね。実は、その…低位の迷宮に挑戦する資格がないん


 です。今の俺のレベルは1ですから…。」


皆の顔が先ほどより一層驚きに染まる。今回ばかりは開いた口が塞がらないようだった。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る