第22話 竜閃愛好者

 シュルトとの決闘を終えてひと月半ほど経ち、三の月になった。あの後、会長を含めた話し合いの末にシュルトが生徒会入りすることで決着した。その過程で彼と和解することもでき、親しい間柄になることもできた。これでようやく落ち着いた学園生活を送れる。…と思っていたのだが、最近また頭を悩ませる存在が現れてしまったのだった。


 時は遡ること一週間ほど前、レイさんから用があると呼び出された時のことだ。なんでも生徒会の帰りに同行していたそいつは、喫茶店に座っていたこちらを見るなり声を上げた。


「アン…あなたはあの時の奴じゃない。どうしてここにっ!」


「えっと、もしかして二人は知り合い…ってかんじではなさそうだね。どんな関係な


 んだい?」


レイさんに尋ねられるが、こちらにはまったく心当たりがない。困り顔で黙り込んでいると、声をあげた少女は俺を指すと非難の声を上げる。


「その様子だと忘れてるみたいね。ま、無理もないだろうけどさ。」


そこで一度止めると体の向きを変え、レイさんに訴えかけるように言葉を続ける。


「レイさん…。あのとき、街でガラの悪い奴に絡まれていた私を見捨てて逃げた小心


 者のこと話しましたよね?今目の前にいるこいつがその例の小心者です!」


「何の話かな。例も何も、俺にそんな覚えは…覚えは…覚…え?」


その言葉を聞いて咄嗟に否定しようとするが、勢いがしぼんでいく。脳裏に浮かんだまさかが合っていないことを祈りながら、少女に質問していく。


「…ガラの悪い奴らに絡まれたのは?」


「この学園の入学試験の日、それも二日目。」


「……北区の路地裏で?」


「ええ、そうよ。」


「………もしかしなくても目が合った?」


「てことはやっぱりアン、…あなたがあの時逃げた小心者なんじゃない。まさか合格


 してるなんてね。まったくこれだから…」


まだまだ話しを続けようとするそいつをレイさんがなだめる。意外にもすんなり落ち着いた少女を横目にこちらを向いた。


「カルマ君のことだから、何か理由があってそうしたんだろう。違うかい?」


「全くもって…違います。ただ、急いでいただけというか。しいて言うならレイさん


 がいたから、とか?」


 まっすぐに見つめてくる眼を直視できず、視線をそらしつつ答えた。


 (…?)


なかなか反応が返ってこないので不思議に思い、ちらりとレイさんを伺うとなぜだか驚いた顔で固まっていた。互いに黙り込んでしまい、気まずい空気が流れたところに少女が割り込んでくる。


「やっぱり理由なんてないじゃない。そんな奴がレイさんと関わるなんておこがま


 しいわ!自らの格ってものを考えなさい、この三下!」


あんまりな物言いに呆然としている間にレイさんに説得され、少女はしぶしぶ帰っていった。去り際に


「レイさんもお付き合い方には気を付けたほうがいいと思います。学園の生徒だから


 と言って好ましい人間だとは限りませんから。それでは…」


と口調が柔らかくなっていたのが印象的だった。




 少女が去った後、レイさんはようやく今日俺を呼んだ訳について話してくれた。


「何者かが生徒会の生徒を監視している…?」


「うん、そうなんだ。最近、皆と一緒に仕事をしているときに視線を感じることが多


 くてね。まず間違いないと思う。」


「うーん…せめて誰を見張っているのかが分かれば、監視者の正体に見当がつく可能


 性もあるんですけどね。そこのところは分かりますか?」


 自信はないが、レイさん自身やシュルトら男性生徒では無さそう…ということだった。

 一応、ほかに手掛かりになりそうなことはないかと聞いてみたが、残念ながら首を振って否定される。まぁそれがわかっていれば、相談する必要もないんだし当然である。


「あれ?レイさん、どうかしたの?」


 突然、目の前に座っていたレイさんが立ち上がり、あらぬ方向を見だした。つられるようにカルマもそちらに視線を向けるが、なにかあるようには見えない。顔を戻して、なぜ立ったのかを聞いてみよう…とするよりも早くレイさんが小声で話し始める。


「(なぜか知らないけど、こちらを見ている人がそこの建物の影にいるんだ。多分、


 お目当てはカルマ君じゃないかな?)」


「(え…。え…!?それってどういう!?)」


 レイさんは再び目線を向けようとする俺の動きを止めると、なんてことのないように告げる。


「カルマ君が居てくれて、ちょうどよかったよ。ついでとはいえ覗き見られるのは不


 快だったからね。僕と君とで捕まえようか。」


吐きそうになるため息を飲み込むと、しぶしぶ頷く。こちらに捕縛の手順を一言、二言話すとレイさんはその場を離れていく。その背中が隠れるのを見届けると、カルマは監視者いるの建物の方へと歩き出した。























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