第21話 蒼火炸裂(下)

 霧壁ミストカーテンの中から走って抜け出す。目指す方向は自らの剣があるのと反対側、向かうと思われる逆に突っ切ることで距離と時間を作る目論見である。 

 霧壁を抜ければ、思惑通りシュルトは剣の近くにいてくれた。そのことを確認すると即座に左手の盾を捨て、両手を自由にする。再度【ウォーター】と【ファイアボール】で霧壁をシュルトの近くに展開し、あちらの視界だけを断つと深く集中を始める。


「【ファイアボール】そして【エアーストライク】…。」


右手左手に炎と風の二つの魔術を起動し、掛け合わせる。本来ならば敵に向かって放ち、吹き飛ばすだけの風を火球に込めていくと猛々しい赤い炎が、鮮やかで静かな蒼いそれに変わっていく。


 その魔術の名は『蒼炎ディープフレア


 現在カルマが放てる最大の切り札である。それを構えるのとちょうど同じくらいに霧が吹き飛んだ。恐らく【エアーボム】によって霧を吹き飛ばしたであろうシュルトがカルマの手にある炎を見て驚愕する。


「青い…【ファイアボール】!?そんなもの見たことも…なんですか!それは!」


その問いにカルマは答えない…。否、答える余裕を持っていない。今の彼はシュルトに注意を払うこと、炎を制御すること。この二つ意識を持ってかれている状態だからだ。ゆえにその声に集中を乱すことなく慎重に腕を突き出すと、動揺を残したシュルトに向けて手のひらの炎を放った。


「効くと思いますか…【ウォーター】!」


対するシュルトは片方の剣を地面に突き刺すと、炎に相性の良い水の魔術を即座に起動する。

 しかし、苦手とする水とぶつかりあってもなお、火球の勢いは損なわれることなくシュルト目がけて飛んでいく。その威力に誰もが命中すると思ったその時、地面から巨壁が現れ、炎の前に立ち塞がった。ぶつかり合う二つは互いに魔力を食いあい、消失する。


「【ウォール・オブ・ストーン】、中位の防御魔術と相性有利の低位魔術の二つで


 ようやく防ぎきれるレベルとは…なんともふざけた威力ですね。」


砕けて宙に溶けていく石片を見ながら、ぼやくシュルト。こちらから視線を外したそのわずかな隙を見逃さず、放っておいた盾をシュルト目がけ蹴り飛ばし走り出す。


「盾を…!?相変わらず読めませんね貴方は!」


反応が遅れてしまったシュルトは慌てて剣で盾を弾く。戻した視線の先には俺の右手にある火球…。間に合わないと判断したのか突き刺していた剣はそのままに大きく距離を取った。…ここまでしてようやく、カルマは自らの剣を取り戻せた。



 仕切り直すように構えあう。互いに開始時の場所にいるものの状況としては初めよりさらにこちらが不利になっている。あちらは片方の剣を失っているものの、魔力を残している…。おそらくだが、まだこちらに見せていない手札も持っているだろう。

 対するこちらは、盾を失い、魔力も心もとない。加えて、使える技をすべて見せ切っているのだ。これを不利と言わず、何と呼ぶのだろう。胸の内で嘆きつつも、冷静に状況を整理する。


(勝機はある…。というか、ぶっちゃけ今しかないな。)


武装を一つ無くした今のシュルトが、現時点でカルマの引き出せる最大限の状態。ここから先は、疲弊させる前にこちらが潰れてしまうだろう。だからこそ、今この場を逃せば、いずれ剣を取り返したシュルトに手も足も出なくなる。そういった考えの元、カルマは無謀とも思える特攻を開始した。

 一息でシュルトとの距離を詰めると勢いのまま斬りかかる。もちろん受け止められたが、目論見通り足を止めることはできた。流れるように左手を突き出すと、至近距離で魔術を起動させる。


「【ファイアボール】ッ!」


自らに余波が来ることもいとわずにさらに起動すると、再び斬りかかる。振るった剣は今度は避けられ、反撃がやって来た。本来ならその一撃は避けることも、防ぐことも難しいものだったのだが…


「なっ…!剣を素手で受けるなんて、正気ですか!?さっきの魔術といい、傷を負


 わないといっても普通はやることじゃありませんよ!?」


驚きの声を無視してさらに剣を振るうが、手ごたえが浅い。その事実に焦るように攻撃を重ねていくが、力も速さも足りないカルマは決め手に欠ける。優位に立ち勝利するどころか、相手からの小さな反撃の積み重ねによって逆に追い詰められていく。

 天秤は徐々に…だが確かに傾き続け、ついにその連撃の果てに二人の決闘は決着を迎えた。甲高い音と共に剣が地面に落ちる。剣を持つことすらおぼつかないカルマの様子を見て、リリィ会長は宣言する。


「そこまでー…勝者、シュルト・ラインフォルト。」


こうしてカルマ対シュルトの私闘は、シュルトの勝利で幕を下ろした。









ーおまけー


 【名】カルマ 【性】ーーー(真島剛) Lv.1 必要経験値:12


種族=人間:12歳 男


 【能力】        【技能】

 

 魔力:68        ・剣術Lv.1 ・槍術Lv.1 ・弓術Lv.1

 物理攻撃:24      ・棍術Lv.1 ・棒術Lv.1 ・槌術Lv.1

 物理防御:34

 魔術攻撃:0→33    ・攻撃魔術:下位(New!)

 魔術防御:34

 俊敏性:33       ・運命の加護 ・女神のベール



 【名】シュルト 【性】ラインフォルト Lv.34 必要経験値:12923


種族=人間:12歳 男


 【能力】        【技能】


 魔力:277     ・剣術Lv.3 ・二刀術Lv.1  

 物理攻撃:232   ・物理防御上昇Lv.1 ・斬撃耐性Lv.1

 物理防御:138   

 魔術攻撃:210   ・攻撃魔術:下位 ・攻撃魔術:中位

 魔術防御:184   ・戦神の加護:下位

 俊敏性:208



【名】ユリア 【性】レンネ  Lv.18 必要経験値:4980


種族=人間:12歳 女

 

【能力】         【技能】

 

 魔力:166     ・杖術Lv.2 ・棍術Lv.2

 物理攻撃:112   ・回復魔術強化Lv.1 ・遠視Lv.1

 物理防御:83

 魔術攻撃:134   ・攻撃魔術:下位 ・回復魔術:下位

 魔術防御:110   ・回復魔術:中位 ・補助魔術:下位

 俊敏:102     ・生命の加護:下位


            ・神聖魔術    

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る