第20話 蒼火炸裂(上)
「それでは、互いに全力を尽くせよ~。決闘開始ぃ~。」
気の抜けた合図に会場にいる全員が脱力する。ただし、
合図と同時に仕掛けたのは、シュルト。接近しつつ、腰に差した二本の剣のうち右手に持った一本を振るう。目で追えたのは場内のほんの一部という、その一閃をカルマは左手に持った盾で危なげなく弾いた。
その手ごたえにどこか違和感を感じながら、空いた胴に右手の剣を振る…直前で後ろに大きく跳んだ。跳躍したカルマの顔面スレスレを剣が通り過ぎていく。振るわれたの右ではなく左手に握られた剣。それが意味するところは、
(二刀流。衝撃がやけに軽かったのは陽動か…剣が短くなかったら喰らってたな。)
両手に剣を持つのは、生半可な負担ではないため大抵の人は長さを短くすることで
その負担を減らしている。その手数が増えるデメリットの一つとしてリーチの減少があり、今回はそれに助けられた形になってしまった。
「やはり避けますか…ではもっと積極的に行きましょう。」
注視していたシュルトが、なにかを呟くとともに視界から消える。
「ッ…!」
背筋に感じる予感に突き動かされ、何よりもまず地面に屈んだ。その頭上から風を裂く音が鳴る。背後を取られたと認識すると同時に屈んだまま振り向き、剣を薙ぐ。途中、交差した二つの刃が振り下ろされるのが見えたので盾を上向きに構えた瞬間、顎に衝撃が生まれる。
(な…に…?今のは…サマーソルトキック?)
頭を揺さぶられた状態でかろうじて見えたのは片足で着地する姿だけだった。対するこちらは、蹴り上げられたままの無防備な状態…。咄嗟の判断で右手を開いて向けると途切れ、途切れになりながら呟く。
「【エアー】…【ボム】ッ…!」
かろうじて起動した魔術は風系統の【エアーボム】といい、範囲内のものを無差別に吹き飛ばすそれが迫ってきたシュルトの刃にぶつかり、炸裂する。
「クッ…!」
「がッ…!」
互いに吹き飛び、距離が生まれる。しかし差は歴然で、こちらは体を打ちつけながら慌てて立ち上がったのに対し、シュルトは余裕を持って着地し既にこちらに向かって来ている。加えて距離を無理やり作るために剣を手放してしまったため、戦況は絶望的であった。
一撃を受け、態勢を崩してしまってからは防戦一方になっていた。左手に持つ盾で襲い掛かる二刀をいなし、そらし、防ぐが…それでもだんだんと追い詰められていく。かすった程度だが体中に傷が出来ていることからも、やられるのは時間の問題に思える。…躊躇いは一瞬。カルマはこの状況を脱するためにあらゆる手札を切る覚悟を決めた。
強引に盾で弾き、連撃を止めると隙ができるのも構わず、大きく距離をとる。少し遅れて追撃してくるシュルトめがけて右手を突き出すとこの日のために作った技を起動した。
「【ウォーター】!さらに【ファイアボール】ッ!」
「何を…!?」
シュルトとの中間地点のやや上空に放った水流と火球がぶつかり、一瞬で大量の水蒸気へと変わる。これが自身の魔術を干渉させ、異なる結果を作り出す技の一つ。主に視界を遮る煙幕として防御や奇襲に用いるそれの名は…
「『
「やはり隠し玉がありましたね…。それでこそ!」
包まれた霧の中でシュルトの楽しげな声が聞こえてくる。しかし、この程度で喜ばれても困る…。
だって、まだまだこれからなのだから…!
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