第19話 決闘開始

 レイとユリアの二人によって鍛えられたカルマは、いよいよシュルト・ラインフォルトとの決闘本番の日を迎えた。今日までの剣で殴られては気を失い、魔力が切れては気を失うという、二度と御免な日々が終わると考えると、喜びで思わず涙が零れそうになる。もちろんそんな本音を表に出すことはないが…。

 

 本日は授業が休みの土曜の日。カルマは生徒の少ない学園内を進んでいくと、目的の建物に到着する。その建物の名は闘技場。

 太古のエルフによって各国に建造された内の一つであり、現在の魔術技術とは異なる技術で様々な効果を実現している施設である。中でも特に強力なのが「結界内の物理・魔力ダメージを一定量肩代わりする」というもので、便利な反面、術式の範囲内においてだけ、攻撃を受けた部分に魔力が通わなくなるという能力低下のデメリットがしっかり存在する。

 これにより、死んでしまうこともなく実戦に近い戦いができるということから、現代まで維持され続け、真剣勝負の学生対抗戦や決闘で使用されているわけだ。本日の決闘もこの闘技場で行うため来たわけである。

 

「おはよう、カルマ君。いよいよ本番だけど体調は大丈夫かな?」


「緊張してると勝てるものにも勝てなくなってしまうからね。体の力は抜いたくらい


 ちょうどいいよ。」


闘技場内に入ったカルマに異なる二つの声がかかる。声の聞こえた方向を見てみれば、思っていた通りレイとユリアの二人が立っていた。


「おはようございます二人共。俺、こういう勝負ではあんまり緊張しないから大丈夫


 ですよ。…もちろん大勢の前だと緊張するんですけど。」


付け加えた言葉に二人が顔を見合わせるとおもむろに口を開く。


「まだ中を見てないんだね…。多分、今日の決闘は1~3年生の7割以上が観戦に


 来てるみたいだけど本当に大丈夫かい?」


うーん…聞きたくなかった。伝えてきたレイさんを恨めしく思うが、別にレイさんが悪いわけではないので、思い直すとなぜそんなに人がいるのか聞いてみた。

 なんでも大勢の観客たちは、1学年でも最上位の実力者であるシュルトを見に来ているらしい。シュルトと同じか、それ以上の実力者は10日後の学生対抗戦で当たる可能性があるため実力を確認しに来ている、らしい。昨日、ユリアさんと急遽剣と盾を準備したときも感じたが、ここの生徒は意識が高い人が多くてご苦労なことである。まぁそのおかげで良い武器を安く手に入れられたし、ユリアさんとも名前で呼べるところまで仲を深められたから悪いことではないんだろう。


「開始時間も近くなってきたし、そろそろ中に入ったほうがいいんじゃないか?気を


 進まないだろうけど。」


「そうですね…正直行きたくないですけど、ここまで来た以上今更です。覚悟を決め


 ますよ。それに…せっかく編み出した技がもったいないですから。」


ほのかに笑いながら二人にそう告げると、対戦者用の通路を進んでいく。出口が近づくにつれ、観客席に座る生徒の姿が見えてくる。想定の倍はいるようで、前言撤回したくなってくるが、そんなかっこ悪いことは出来ないのでそのまま進む。

 リングの前まで行き、付けられた数段の階段を上がれば、先に上がっていたシュルトと視線がぶつかる。


「一週間ぶりですね、カルマ君。私の見立てでは、すぐにでも諦めて決闘を降りる


 と考えていたんですが…勘違いしていたようですね。正直、驚きです。」


今日は至って冷静なシュルトがした、少し的外れな発言に思わず苦笑しながら、その言葉を否定する。


「勘違いじゃないですよ。実際、初めのほうは何とかして辞退しようと考えてました


 から。…ただ、良い友人に恵まれてしまって、そんなかっこ悪いことはできなくな


 っただけです。」


俺の言葉を聞き、少し意外そうな顔をするシュルト。すぐに元の無表情に戻ったが、その顔は笑っているようにも見える。


「勘違いでしたよ。貴方は調子に乗った愚か者ではなく、ただ常識を知らない善人


 みたいだ。人を見る眼といい…まだまだ私も未熟者ですね。」


馬鹿にされているのか、褒められているのか迷っているとリリィ会長がリングに上がってきた。それを見て、シュルトが動き始めたので、同じように定位置につく。

 

 そうして、カルマ対シュルトの決闘が始まった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る