第18話 魔術習練

 本日二度目の訓練場につくと、まず魔術の起動練習から始まった。今日までに覚えた魔術は【ファイアボール】【ウォーター】などを始めとした、下位魔術を十数個程度である。


「とりあえず、練習用の的に覚えた魔術を一通り撃ってもらえるかな?」


言われた通りに魔術を起動する。起動した魔術の精度や威力を確かめながら、何度も的に魔術を放っていく。

 …そうして、取得している魔術の中で最後である【サンドショット】を起動した瞬間にそれは起きた。


「あれ…?」


気づけば視界の大半を地面が埋め尽くしていた。いつの間にか、気を失ってしまったようである。急いで立ち上がるが直ぐに力が入らなくなり、地面に座り込んでしまう。


「カルマ君、それがいわゆる魔力切れって状態だよ。一度体験してもらってたほうが


 いいってことになっているんだ。それで…気分は大丈夫かな?」


レンネさんがすまなそうな顔をしながら座り込んだ俺に聞いてくる。


「大丈夫です…正直、先に教えてくれたらよかったのにと思ってますが。」


「ふむ…確かにそうだ。別に教えて不都合なこともないし、そっちのほうが


 いいね。」


真面目な顔をして思案するレンネさんに内心ツッコむ。普通に気づいてなかったのかよ…。



 数分後、俺は二人と訓練場に備え付けられているベンチに腰かけていた。動けなくなっていた俺がここまで移動できたのは、魔力回復薬…いわゆるポーションで消費した魔力を回復させた結果である。


「はっきり言うけど、ラインフォルトとの戦いで魔術は牽制か防御くらいしかできな


 いと思う。覚えてもらったのは単純な強化ってよりは知識を体験にする側面が強い


 かな。…もちろん手数が増えたわけだから、強くなってはいるけどね?」


そう断言するレンネさん。自分でも分かってたことだが、突きつけられると堪えるものだ。ただ気になるのは…


「レンネさん、魔術で防御っていうのは?防御系の魔術は覚えてないんですけど…」


俺の言葉に不思議そうな表情を浮かべたが、ポンと手を打つと立ち上がった。


「カルマ君…は大変そうだし、レイさん【ファイアボール】出してもらえない?」


「あれをするんだね。分かった、出そう…【ファイアボール】」


俺の物より幾分か大きい火球がレイの手のひらに出現する。同じようにレンネもレイと同じ【ファイアボール】を出す。そして、二人は至近距離で二つの火球を衝突させた。

 ぶつかって爆発するかと身構えたが、カルマが的に命中させた時とは違って【ファイルボール】が溶けるように消滅していく。その結果に驚きを隠せないカルマは、すぐさま疑問をぶつけた。


「今のは何が起こったんです?魔術がぶつかり合うなら、もっとこう…バーンと爆


 発とか衝撃が発生しそうなものなんですが。」


「フフ…魔術の根幹は魔力ということは知ってるね?その魔力には波長のようなもの


 があって、それが術者一人一人によって変わるんだ。魔術同士がぶつかり合うとき


 波の違う魔力が互いに打ち消すから、空気に溶けるように消失するというわけ


 さ。」


手振りを交えて説明してくれるレンネさん。初耳の事実に納得し、頷いていると自慢げな表情を引っ込め、こちらを心配するような真剣な表情で言葉を続ける。


「ただ、相手と同じ量の魔力が込められてないと消し切れないから普通は余裕がな


 いとしない。今回は攻撃として期待できない以上、防御の選択肢に入れといたほう


 がいいと思って教えただけだからな。十分、気を付けてくれよ?」


「分かりました。使いどころは慎重に考えて選びます。」


レンネさんからありがたい忠告に強く頷くと、浮かんでいた表情が和らいだ。

 

 とりあえずのところは、説明することがなくなったようなので頭に浮かんでいた質問をぶつけてみる。内容としては「他者の魔術は打ち消しあうが、それが同じ人物の魔術なら打ち消し合うのか?」というものである。この質問に対しレンネさんは、持ってきていた自前の魔術書を開きながら教えてくれた。答えとしては、YESでありながらNOでもある、ということだった。

 いわく、例えば同じ術者の火と水の魔術がぶつかるとき、二つは打ち消しあって水蒸気を発生させるそうだ。つまりは、空気に溶けるように消えるのではなく、物理現象として消えていくというわけだ。


「少し、思いついたことがあるんだけど…知恵を貸してくれないかな?」


楽しさを抑えきれないといった顔で、二人にアイデアを語り始めるカルマ。その内容を聞き終わると、互いに興味深そうな表情になった。特にレンネさんは好奇心を強く刺激されたようで、乗り気に見える。


「でもちょうどよかったよ。カルマ君には何度も魔術を使ってもらうつもりでいたか


 らね。考えたアイデアの練習も出来るなら、やる気も出るだろうからね。」


「それって、魔力切れまでやったりしないですよね…?」


「いや…逆に魔力切れを起こしまくって、その状態に体を慣れさせるための特訓だか


 らね。これから毎日のように魔力を空にしてもらうから、覚悟しておいてくれ


 よ?」


放たれた言葉に絶望する。ただでさえ、レイさんの相手で死ぬような思いをしてるのに…これ以上の負荷なんて考えられない。しかし、今更逃げることもできないのでがっくりと項垂れたのだった。



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