第15話 新生役員

「…ということがありまして。この大変さ、わかってくれます?」


「なるほど、それは確かに大変だったね。」


生徒棟の階段を上がって、現在は生徒会室。入ってきたときには室内にリリィ会長はおらず、俺と同じく戦闘系クラスの新役員として呼び出されていたアスタリオンさんが居た。前回彼と会ったのは、制服を買ったときなので覚えていているか不安だったが、嬉しいことにあちらから声をかけてくれた。

 いくつか世間話をし終えたところで、こちらの顔から疲労の色を感じたらしく、何故かを問われたので教室での騒動を説明して、今に至る。


「なんでラインフォルトが急に怒ったのか、アスタリオンさんには心当たりとかあ


 るかな?」


「カルマくん、レイと呼んでくれていいよ。…それで心当たりについてなんだが残


 念ながら力になれそうにない。彼との交流も特別あるわけじゃないからね。」


「そっか…ありがとうレイさん。このことは自分でいろいろ調べてみるよ。」


そうは言ったものの、今のところ情報を得る当てとしては一人の人物しか思い当たらない。今すぐにでも聞きたいと考えたその瞬間、生徒会室の扉が開かれる。扉を開けたのはちょうど頭の中で思い浮かべていた人物、リリィ会長その人であった。


「おー、二人ともちゃんと来てるな。さすがさすが…あ、後ろの奴らも入ってきてい


 いぞー。」


そういうと会長は中に入ってきて、窓辺にある『生徒会長』と書いたプレートの乗った机にある椅子にすわった。その後ろから4人の生徒が入ってくる。


「あれ?レンネさんじゃないですか?」


そのうちの一人に見知った顔を見かけたので声をかける。相手はカルマの顔を見ても驚く様子はなく、さも当然のように話しかけてくる。


「やぁ…昨日ぶりだね。カルマくんも生徒会に勧誘されたのかい?」


「あ、はい。そうです、今のところは…」


「今のところ…?」


付け加えた言葉に疑問を覚えたようだが、それを聞いてこようとする前に会長が話し出す。


「えー…君たち聞いてくれ。ここにいる6名が新生徒会役員として、ほとんど確定し


 ている者たちだ。これから3年間は、同じ顔を突き合わせて仕事することになる


 からくれぐれも無意味な衝突とかはしてくれるなよ。」


一同は頷いているが、時々誰のことを示すかのようにチラチラと見られているカルマとしては、素直に頷きにくい気持ちだった。こちらだってわざと喧嘩を吹っかけているわけではないのを分かってほしいが、実際無意味な衝突を初日から起こしている身としては頷かざるを得ないのだった。1ミリほどだが。


「他の役員については、今後個人で交流を深めといてくれ。今日のところは、生徒


 会の主な業務とか話すからしっかり聞いとけよー。つっても1年でやることは少な


 いから安心していいぞ。まず一番多いのが課外活動や私人決闘の立会いだな。あと


 でそういう場合に確認するべき事項を載せた用紙を渡すから失くしたりしないよ


 うに。他には…」


そんな調子でいくつか業務を説明していく会長。そうして一通り話し終えたときには話し始めて、1時間以上も経過していた。

 話すこともなくなり、今日のところは解散ということで皆、生徒会室から退出していく。その中から会長を捕まえると、アスタリオンについての質問をする。


「会長、なんであの決闘の申し込みを承認したんですか?実力差がありますし、相


 応しい理由も見当たらなかったんですが…。それとも、彼が引かなそうな理由に


 心当たりとかあったんですか?」


「ん?ああそうだな。あいつ、貴族の名家でプレッシャーがすごいらしくてな。生徒


 会に入れるってのは優秀なことの証明みたいなもんだし、それを目指して努力する


 貴族自体を侮られたみたいに感じちゃったんじゃないか?…まぁ憶測だがな。」


「…それはなんというか悪いことを言ってしまいましたね。別にそんなつもりはなか


 ったんですけど…。」


「だからって不用意に謝るなよー。事実としてお前は一般学の試験を満点で通過する


 ような実力者なんだから。上にいる以上舐められないようにするのは大切なん


 だ、その下の者が余計惨めに見えるからな。」


「あ、はい。わかりました。」


満足したように頷いて出て行こうとするリリィ会長。俺はその姿を見ながら…逃げられないように扉の前に立つ。


「決闘を了承した理由はわかりました。それはそれとして、今すぐ中止するなりして


 手を打ってください。俺に勝ち目がないのは不公平です。」


そういって圧をかける。舐められないようにしろと言ったが、このままやれば決闘なんて一方的にやられて終わりである。怪我自体は闘技場があるから問題ないが痛いものは痛い。何がなんでも中止させてやるという思いで立ち塞がっていると、思いがけないことを言われてしまった。

 

「じゃあ扉の前にいる奴らに特訓でもつけてもらえ。そうすりゃ、勝ち目くらいで


 きるだろ。」


その言葉に反応して、扉から離れる気配を感じた。恐る恐る開けてみれば、そこにはレイさんとレンネさんの二人が立っている。


「気づかなかった…いつから?」


「最初からだぞー。…じゃあほどほどに頑張れよ。」


扉が開いた隙にいつの間にか会長が外に出て行っていた。まんまと逃げられた形であるが、今更追うのも疲れるものだと言い聞かせることで極力落胆を減らすことにしたのだった。








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