第7話 学園試験:2日目(下)

 現在俺は他の受験生との模擬戦を控えているが、対戦相手であったシュクダイとその仲間に再び絡まれたくなかったので予定時刻ギリギリまで学園を散歩することに決めて、試験会場を出た。

 物珍しい場所であるが周りを見る余裕はなく、頭の中はこの後の模擬戦でいっぱいである。実際、発表まで誰と当たるかなんて分からなかったので観察なんてしていない、というか昨日の奴だと気づいてもいなかった。

 こんなことならば昨日やりあって実力の把握でもしてれば良かったと後悔するが、過ぎたものは過ぎたもの。せめて負けるにしてもなんとかいい点数が貰えるくらいには善戦したいものだ…。

 

 今の自分の最善を結論付けると、一度考えを打ち切る。予定されている開始時間になってしまうのでそろそろ元の場所に戻らなければいけない。のだが…


「………ドコココ?」


今年で11(+17)歳にもなるのに、この年齢で迷子…否!結論づけるのは早い。周りを見渡せばほらすぐそこに訓練場…なんてものは見当たらない。

 周りにあったのは大きな訓練場ではなく小さな小屋である。学園の建物の影になる部分にひっそりと立っているそれに寄りかかり、さてどうしたものかと頭を悩ませているところに救いの声がかかった。


「貴方、そこで何をし…」


「すいません!訓練場はどこですか!」


問いかけを遮るように質問すると相手は驚きながらも右手側に指を向ける。


「あ、あちらのほ…」


「ありがとうございます!失礼します!」


話を最後まで聞かず、感謝とともに示された方向へ駆け出す。事情があると察してくれたのか、俺を止めることなく見送ってくれる親切な人に出会えてよかったとしみじみ思う。

 

 実際はただその勢いに口をはさむ間がないだけなのだが、それに気づくことなくカルマは走り去っていった。



「なんだコレ…何があったんだ?」


 訓練場に着いた俺の目の前に広がってたのは、およそ見る影もない無惨なリングの姿だった。近くの受験生を捕まえて話を聞いてみると、どうやら俺の一つ前の試合だった受験生らの仕業らしい。どうにかして試合を受けさせてもらおうと思っていたが復旧までまだ少しかかるため、試験官方には平謝りしなくて済みそうだった。

 …しかし、俺と同じ年で一辺50メートルほどの正方形のリングをほとんど全壊にするとは末恐ろしい子供もいるものである。その事実には思わず現実逃避するが、講師からの復旧完了を告げる声に現実に引き戻される。

 

 しばらくして、名前が呼ばれたのでそそくさとリングの方に近づけば反対側にシュクダイの姿が見える。今から行われる模擬戦は、制限時間5分、戦闘続行不可能もしくはそれに相当する攻撃を受けると判断された時点で終了の勝負だ。俺の武装は講師のときと同じく剣と盾、対してシュクダイのほうは剣のみのようだ。

 準備が終わった二人がリングに立つ。両受験生が所定の位置にいることを確認した試験官からの宣言がされた。


「これよりシュクダイ対カルマの模擬戦を開始します。両者、素晴らしい戦いを期待


 しているので全力を出し切るように。それでは、開始!」


その声と同時にシュクダイが駆け出した。そのまま減速することなく一直線にカルマとの距離を詰めると右手に握る剣を振り下ろす。


「くらえオラァッ!」


声を上げながら繰り出された攻撃を冷静に盾で防御する。バコン!という鈍い音ともに剣を弾かれ、無防備になった相手の胴に向けて剣を振るう。

 そのまま一撃入ると思われたがわざと後ろに倒れこみ盾を蹴るという方法で距離をとられた。思わぬ方法に息を巻きつつも蹴り崩された態勢を立て直すが、二、三度同じようなやりあいをするものの互いに攻撃は入らない。

 

 時間だけが過ぎる状況に焦れたのか、突然シュクダイは大きく距離をとる。その行動を怪訝に思っているとシュクダイは左手を突き出し俺のほうに向けてきた。そして一つ息を吸うと高らかに叫ぶ。


「ファイアボール!」


「はっ!?」


飛んでくる拳大の火球を前で一瞬呆けてしまったが、すぐに気を入れ直し左手の盾で火球を弾き消す。その行動にシュクダイだけでなく講師陣もどよめいた。

 …なんか周囲は防御されたことに驚いているようだが、こっちだって驚いている。だって普通、武術の試で魔術使ってくるなんて思わないだろう…?しかも講師陣から声が上がっていない以上合法みたいだし。


「はぁ…武術以外も使っていいなら最初から全力でやれたのに。」


「全力?おまえにも奥の手があるのか?」


俺の発言が聞こえていたようで、あちらはそう問いてくる。その質問にニヤリと笑うと俺の全力の正体を伝えてやる。あんまり期待されても困るものだが、ここで不敵な笑みを浮かべるのはお約束なので許してほしい。


「俺の奥の手。…と呼べるかはわからんが、それはズバリ……”身体強化”だ。」


堂々とした宣言に周囲の空気が固まるのが伝わってきた。

 それもそのはず、この世界において身体強化は武術をする上で最もポピュラーな技の一つに位置している。そのポピュラーさはルールを勘違いしたポンコツくらいしか出し惜しみなどしない程度のものである。なので…


「喋る気がねぇんならよ…そのままやられろやぁ!」


このようにはぐらかされたと感じたシュクダイは叫んだ勢いのままに剣を投げ捨てると両手を突き出す。その手からは炎が噴き出し、波のように襲い掛かってきた。その術の名は


「ファイアウェイブ!」


こちらを焼きさらんと迫る炎の波に対して、カルマは落ち着いた様子で先程と同じように盾を使い弾き上げる。


「な、なに!?なにをっ!」


上に弾かれた炎は遮蔽になり、シュクダイの視線を分断する。数秒経ち、炎が完全に消え去ったときには既にシュクダイの視界にカルマは存在していない。


「どこに消えっ…!」


慌てるシュクダイの後頭部に一撃。

 予想外の攻撃に対応できず、シュクダイは地面に倒れ伏す。意識の確認にいった他講師から主審のほうへ首を振る様子が見られた。それを見た主審講師は高らかに勝利を宣言する。シュクダイ対カルマの模擬戦決着の瞬間であった。


 

 しかし我ながらこのように不意打ちしなけらば勝てないのは少し悲しい気持ちになるな…。




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