第5話 学園試験:1日目(下)
チンピラらしきモブ集団たちと出会った路地を抜けるとようやく目的の場所へと到着した。
この国最大であり最高と評される王立学園、名をキリシュトリアである。商家のボンボンや才能の原石、上流階級の貴族らも通うだけあって清潔感と品があり、そして何よりデカい。デカすぎるのである。
面積は街の北6割を占めるほど広大で、何よりその校舎自体に目を奪われる。前世の名門大学らと比較しても見劣りしないほどである。これほどのものは転生してこのかた見たことがなかったので素直に圧巻されていると学園内から講師と思わしき人達が現れ始めた。
「我が学園の受験をするものたちは講師に説明を受け、中へ進むようにー!」
あちこちからそういった呼びかけが聞こえてくる。周りを見れば、半分以上の受験者らしき子たちは近くの講師のもとへと移動し始めていた。俺も遅れないようにしないと。
列にならんで待機していると程なくして、順番が回ってくる。
「名を名乗ったのち、受験票を提示してください。」
指示に従って名を名乗り、受験票の提示をする。
「カルマです。こっちが受験票です。」
提示したそれにさっと目を通すと講師の人は軽くうなずき説明を始めた。
「試験日程は今日、明日の2日で本日は筆記の試験のみ行います。一般学の場合は右奥の棟、魔術学は左の棟へと移動してください。よろしいですね?」
指示が頭に入っているか確認すると了承の意を示す。するとそのまま学園内へと入れてくれた。いわれた通り右の棟へと入って程なくすれば人だかりが見えてくる。
こいつらが一般学を受けるライバルだろうか…?そう思いながら様子を窺えば、受験者の総数に比べて人数がだいぶ少ない。今年の受験者はざっと1000以上は聞いていたがように感じたがそれの3割にも満たなそうな数だった。
俺の後にも2,3人ほどは来たがそれだけである。人気がないのか、それとも俺が考えている以上に難易度が高いのか…。疑問はあったが試験が始まってしまったため、ひとまずこの事を考えるのは辞めにしておいた。
昼までに言語、史学、算術の試験が終了した。手ごたえは十分あったので安心して昼をとれるというものだ。気を抜いて控室で昼飯を食べていると横合いから声がかかった。
「隣いいかな?」
声の方向に目線を向ければ栗色の髪をした少女がニコニコとした顔でこちらを見ていた。見たところ害意のようなものは感じられないので身振りで了解を伝えると感謝とともに俺の隣に腰を下ろす。初対面の俺に何の用だろうと警戒していると促す前にあちらのほうから話し始めてくれた。
「キミ、すごいね。あのレベルの試験をスラスラと解くなんて。今も落ち着き払ってるし、ミスした可能性とか考えてないんでしょ?」
「…うーん、別にそういうわけでもないけど。今更そんな可能性考えてられないからこうしてる。ただそれだけだよ。」
俺の答えに何を思ったか、彼女は一瞬目を細めるがすぐに元の顔になるとこちらに手を差し出してくる。
「私は、ユリア・レンネ。貴方の名前は?」
「俺はカルマ。よろしく、でいいのかな?また会えるかはわからないけど。」
「そんなことないよ。まず間違いなくキミは通る、だからそのときはよろしく頼む
ね。」
何の根拠で自信満々に言い張るのか疑問に思ったので、その手を握りつつ聞いてみようとすると試験官を担当している人が控室に入ってきた。
「これより試験後半を開始します。受験者は取り急ぎ会場まで移動してください。」
試験官の言葉を聞いたのちユリアさんはこちらに向き直り
「私はもう行くよ。また今度会いましょう。」
そういって微笑むと、そのまま立ち去って行った。俺も移動しようと立ち上がり、うーんと一つ伸びをする。
そういえば何であの子俺が試験をスラスラと解いてるのが分かったんだろ、カンニングかな?
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