第4話 学園試験:1日目(上)

「気を引き締めて臨むんだぞー!」


「頑張ってねーカルマちゃん!」


「はい、行ってきますね。父さん、母さん。」


 いよいよ試験の日。俺はグレッグとリンダの二人に見送られ、家を出る。

今は日が昇ってきて少し時間が経ったくらい、時刻でいえば7時頃である。学園の試験は朝の鐘、9時ちょうどに始まる予定になっている。結構はやくに家を出ているのは、ひとえに学園までの道のりに理由がある。

 まず学園は円に形どられた王都の北側、その6割ほどを占める形で存在している。現在、俺たち一家が住んでいるのは比較的物価が安い南側のため必然的に学園までは結構な時間が必要になってくる。到着予定は試験開始のだいたい30分くらい前。トラブルなどを考慮するともう少し早く行きたいところではあったが、そこはグレッグらに止められた。


「睡眠をしっかりと取っておき、力を蓄えるのも重要だ。」


だそうだ。確かに一理あったので助言は素直に聞いておいた。

 

 そして歩くこと1時間。街の中央に近づいてくると通勤する大人たちに混じって、周りにちらほらと同年代らしき子供らが見え始めた。様子をうかがってみるが意外にも不安な様子をしている奴は少ない。むしろ自信に満ち溢れた顔のほうが多く、不安げな顔をしている奴らのほうが目立つくらいだった。

 ほどなくすると、学園まであと少しという所で不安げな顔をする女子数人を囲みこむように立つ奴らの集団に出会った。なんという異世界テンプレ!

 これは神様からその子らを助けだせという天啓だろうか?しかし、ここで介入して目を付けられるというのもテンプレ…。比較的一般人の俺が目を付けられると最悪死にかねない、というかこんな時に人をいびるようなムーブをするのは大体偉いところのボンボンなパターンか性格の悪い天才児パターンが多いので返り討ちにあう可能性だってあるだろう。

 うんうん頭を悩ませていると、ふと集団のうちの1人と目が会ってしまった。


「あちゃー…」


額に手を当てる俺に対し、そいつはこちらを向き絡んできた。 


「なんだ、お前?俺たちに用でもあるのか?」


 しかもあからさまな小物のムーブである。その言葉で俺がいることに気づいた集団は一斉にこちらに目線を向けてくる。さてどうしたものかと突っ立っていると…


「無視するなんていい度胸だなおい!」


なんてセリフとともに殴りかかってきた。なんてモブらしい!ここはぜひとも転生主人公らしくこいつを返り討ちに…。と覚悟を決めたところに背後から声がかかった。


「そこまでにしておいたほうがいい。見過ごせなくなるからね。」


その場の全員の視線が俺の背後に向かう。

 そこにはぱっと見た限りでも実力者であることがわかる赤髪の少年が立っていた。こっちのパターンかぁ…と少し落胆気味にしているとモブ集団のうちの1人がポツリと呟く。


「赤い髪にその剣…。もしやレイ・アスタリオンか!?」


「なにっ!?こいつが?」


「あの噂のか?しかしそれほどの力があるとは思えないぞ…」


その様子にレイと呼ばれた少年は余裕の様子で笑って見せるとモブらにむかって言い放つ。


「噂が本物かどうか…試してみるかい?」


たじろぐ集団の様子を見ると、俺の存在が空気と化しているのがわかってしまった。  

 この展開の続きは気になるが試験の時間が近くなっていることだし、これ幸いと一歩二歩と後ろに後退していく。去り際に目にしたのは集団のリーダーらしき男と実力者レイさんが向かい合っている姿だった。

 

まぁ俺は彼らと違って遅刻の時点で即終了なのだ。触らぬ神になんとやらだし。彼らに適当に謝罪の念を送って、その場を後にした。

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