第32話 蘇る闇
海底城の最深部、冷たく湿った地下聖堂に長老は佇んでいた。聖堂はかつて光の神を祀る神聖な場所だったが、今では闇と氷が支配する場所と化していた。
「すべてを失うくらいなら……いっそ、全てを破壊してやる。」
長老の手には、あの氷獣の砕け散ったコアの欠片が握られていた。それはまだ薄く青白い光を放ち、冷気をまとっていた。
「《虚氷の契約》……」
彼は古代の魔法書を開き、血の一滴をコアに垂らした。瞬間、コアは激しく脈動を始め、長老の手に食い込むように吸い付いた。
「うっ……! この力……!」
冷気が彼の体を包み、皮膚は青白く凍りついていく。骨が軋み、筋肉が氷の鎧に変わり、彼の人間らしい姿は徐々に消えていった。
「我が名は……氷獣エリュシオン……!」
長老の声は低く唸り、完全に怪物の咆哮へと変わった。
その姿は、かつてレオとカイが倒した氷獣よりもさらに巨大で、全身が黒い氷で覆われていた。目は血のように赤く、吐息は周囲の水を凍らせ、海底全体に冷気を広げていった。
エリュシオンはその巨体を揺らし、海底城の壁を突き破った。城内にいた兵士や住民たちは、突然の衝撃に驚き、逃げ惑ったが、彼らは瞬く間に凍りつき、動きを止めた。
「……逃げられると思うな、人間どもよ……」
その声には、長老としての冷静な知性と、怪物としての破壊衝動が同居していた。
一方、レオとカイは氷の怪物が再び現れたという報告を受け、急いで城の中心部へと向かっていた。
「カイ、気をつけろ! 前の氷獣よりも圧倒的に強い……!」
「分かってる! でも、あの冷気……まさか長老が……?」
「……だとしたら、もう手加減はできないな。」
レオは魔法の本を開き、炎のページをめくった。
「今回こそ、完全に終わらせる。」
エリュシオンは巨大な爪で城の塔を薙ぎ払い、氷のブレスで庭を凍りつかせていった。
その姿を見たレオは、炎を纏った剣を召喚し、カイも光の弓を構えた。
「行くぞ、カイ!」
「うん、絶対に終わらせる!」
二人の英雄は、かつての仲間だった長老――今や氷獣エリュシオンとなった存在に立ち向かうため、全力で駆け出した。
果たして、彼らはこの新たな絶望に打ち勝つことができるのか……。
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