第31話 長老の陰謀

長老と呼ばれる男は、海底城の暗い一室に佇んでいた。古びた木製の机の上には、黄ばんだ地図や秘伝の魔法書が広げられている。部屋には灯りもなく、唯一の光源は彼の手の中で揺らめく青白い魔石の輝きだった。


「カイとレオ……余計なことをしてくれたものだ。」


彼の低い声は、冷たく澱んだ空気の中に溶け込んだ。


長老は、表向きは城を守り導く賢者として振る舞っていたが、その実態は影の中で糸を引く策略家だった。彼は長年、海底城に眠る秘宝を手に入れるため、城の住民たちを操り、危機を演出し、少しずつ力を蓄えてきた。


しかし、ヴァルスが倒され、虚無の力が崩壊した今、計画は大きく狂わされた。特に、カイとレオの活躍は彼にとって目障りでしかなかった。


「二人が城にいるうちに始末しなければならない。」


長老は青白い魔石に手を翳した。


「《シャドウコール》」


闇の中から影のような存在が浮かび上がった。それは形を持たず、冷気と殺意だけを漂わせていた。


「任務はただ一つ。カイとレオを闇に葬り去れ。」


影は命令を受け、音も立てずに部屋を出て行った。


その夜、城の廊下は不気味な静けさに包まれていた。


カイはまだ氷の怪物との戦いの疲れを癒やすために、自室で休んでいた。レオもまた、次なる危機に備えて本を読み漁っていたが、眠気には勝てず、机に突っ伏していた。


影は、まずカイの部屋へと向かった。


扉の隙間から霧のように侵入し、影はベッドに横たわるカイを見下ろした。


「……」


無音のまま、影はカイの胸元に冷たい手を伸ばした。その手が触れれば、命を奪う呪いが発動する仕掛けだ。


しかし、その瞬間、カイの手元の小さな護符が輝きを放った。


「っ!?」


影は後退した。護符はグレイ――かつての村長――がカイに持たせていたもので、光の力が込められていた。


影はすぐに態勢を立て直し、今度はレオの部屋へと向かった。


彼の部屋もまた静まり返り、レオは机に突っ伏して眠っていた。


影は壁に溶け込むように進み、レオの背後に迫った。


「……さようなら、英雄殿。」


しかし、レオの本が突然光を放ち、影を弾き飛ばした。


「な、何だ!?」


レオは目を覚まし、周囲を見回した。


「……影?《フレイムバースト》!」


レオの手から放たれた炎が影を包み、闇の存在は激しく燃え上がった。


長老は、遠くから影の消滅を感じ取り、顔を歪めた。


「くっ、役立たずめ……」


しかし、彼はすぐに冷静さを取り戻し、次なる策を練り始めた。


「いいだろう。直接手を下すのは望まぬが、今はそんなことも言っていられないか。」


長老は古びた魔法書を開き、次なる呪文を唱え始めた。


「英雄たちよ……次は必ず、闇の中に葬ってやる。」


彼の手の中で、青白い魔石は不気味な輝きを増していた。

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