第29話 氷の牢獄
カイは城内の冷たい石の廊下を駆け抜け、ようやく外への扉にたどり着いた。重い扉を押し開けると、海底城の外は薄暗い青の世界が広がっていた。しかし、その静けさは不気味な冷気に包まれていた。
「何だ……これ……?」
息を呑むカイの視界には、見慣れたはずの城の庭や広場が、すべて凍りついている光景が広がっていた。草木は白く霜に覆われ、噴水から流れ出る水さえも凍結し、氷の彫刻のように静止している。
しかし、もっと恐ろしいのは、城の守衛や住民たちまでもが氷の中に閉じ込められていたことだった。
「みんな……!」
カイは凍りついた人々に駆け寄り、氷の壁を叩いた。しかし、その氷はまるで生きているかのように彼の手を拒絶するように冷たく、ひび一つ入らない。
「一体、何が……?」
そのとき、遠くの海の暗がりから、ゆっくりと影が現れた。
巨大なシルエット。深海の闇よりも黒く、全身が氷の結晶で覆われた異形の怪物だ。鋭い爪と、冷たい青白い目がカイを見下ろしている。
「まさか……お前が、この氷を……?」
怪物は答えることなく、口から冷たい息を吐き出した。その息は霧のように広がり、周囲の水を瞬時に凍結させる。
その霧が触れた住民たちは、次々と氷の檻の中に閉じ込められていく。息をしていた者も、動いていた者も、皆等しく静寂の中に囚われていく。
「やめろ……このくそ野郎!」
カイは剣を抜き、氷の怪物に突進した。しかし、怪物はその場から動くことなく、再び冷気を吐き出した。
瞬間、カイの足元から氷が生え、彼の動きを封じ込める。
「くそっ……!」
足に纏わりつく氷を剣で砕きながら、カイは必死に距離を取った。しかし、氷はまるで彼を逃がさないと言わんばかりに次々と襲いかかってくる。
「このままじゃ、俺も……!」
恐怖と焦りが混じり合う中、彼は頭の中で必死に策を巡らせた。しかし、城の周囲はすでに氷に閉ざされ、逃げ場はどこにもない。
冷たい霧が再び漂い、視界がぼやけていく。カイは剣を構え、最後の力を振り絞るように叫んだ。
「誰か……助けて……!」
その声は、冷たい海底の静寂の中に吸い込まれ、消えていった。
そして、冷気がカイを包み込み、彼の視界は徐々に白く染まっていく。
(これで……終わりなのか……?)
意識が薄れゆく中、彼は遠くから迫りくる光の影を見たような気がした。
しかし、その正体を確かめる間もなく、彼の体は完全に氷の中に閉じ込められた。
静寂が訪れ、城の周囲はさらに深い冷気に包まれていった。
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