第25話 潜水
レオは、荒れた海岸線に立っていた。冷たい海風が髪を乱し、塩の匂いが鼻を刺した。彼の目の前には、果てしなく広がる青い海と、打ち寄せる白い波。だが、その先に何があるのか、彼はまだ知らなかった。
「海底城アクアリウス……本当にそんな場所があるのか?」
村長グレイの残した岩の刻印には、確かに「海底城」と「息子」のことが記されていた。だが、海底にある城など、ただの伝説に過ぎないという話もあった。
しかし、レオは村長の意思を無駄にするわけにはいかなかった。そして、虚無の力がまだ世界を蝕んでいるのなら、手をこまねいている時間はない。
彼は腰に下げた魔法の本を取り出した。戦いの中で蓄積された血と汗の跡が染み込んでいるが、今も尚、そこに新たな魔法を刻むことができる。
「水流の魔法、水中呼吸の魔法……もっと何か、役立つ呪文はないか……」
彼は村の図書館で集めた知識を振り返りながら、本に手をかざした。
「《アクアロード》!」
本のページに青い文字が浮かび上がると、レオの足元から水の道が形作られた。水流が彼の体を包み込み、まるで水そのものに導かれるような感覚が広がる。
彼は意を決して海へと足を踏み入れた。冷たい水が一瞬体温を奪ったが、魔法の効果で呼吸は平常通りだ。
レオはそのまま水中へと進んだ。水流は彼を包み、押し流すのではなく、自然に導いてくれる。魚たちが驚いて逃げていくのを横目に、深く、より深く潜っていく。
やがて、太陽の光が届かない暗闇が広がり始めた。深海の冷たさが魔法のバリアを通しても伝わってくる。
「このまま進めば、本当に海底城に辿り着けるのか……?」
不安が胸をよぎったが、彼は握りしめた本の温もりを感じ、決意を新たにした。
突然、海流が激しく渦を巻き始めた。
「しまった、魔物か!」
水の中から、巨大な影が姿を現した。それはまるで、海底の岩そのものが動き出したかのような、巨大なウミヘビのような魔物だった。
赤く光る目がレオを捉え、鋭い牙が水を切って迫ってくる。
「《フレイムバースト》!」
レオは即座に炎の呪文を唱えたが、海水はその炎をかき消してしまった。
「しまった、水中では火は通用しない……!」
魔物の尾が迫り、レオは咄嗟に水流に乗って回避した。しかし、次の一撃は避けられない。
「……冷静になれ、何か使える魔法は……!」
彼は本を開き、必死にページをめくる。
「あった! 《アイスランス》!」
彼の手元に冷気が集まり、氷の槍が形成された。それを魔物の赤い目めがけて放つと、鋭い音を立てて突き刺さった。
魔物は苦しげにのたうち回り、海底の砂を巻き上げながら逃げていった。
静寂が戻り、レオは息を整えた。
「まだまだ、こんなものじゃ進めない……けど、僕は行くんだ。」
彼は再び、水流の道に身を任せ、海底城を目指した。
その先に何が待ち受けているのか、まだわからない。だが、彼の心の中には確かな光が灯っていた。
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